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『人魚が逃げた』(青山美智子 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第2回

視点で変わる、童話の教訓

 本作は、全5章のオムニバス形式で綴られる。

 舞台は銀座の歩行者天国。テレビの生放送番組のロケ。インタビュアーの芸人が直撃インタビューをしたのはまるで童話から抜け出したような「王子様」の格好をした、自らを「王子」と名乗る美しい青年。

 王子はここへ来た理由を問われると、

 「僕の人魚が、いなくなってしまって……」

 人魚姫に出てくる王子が銀座で人魚姫を探している? その直後、王子はSNS上で話題となり、『#人魚が逃げた』がトレンド入りする。

心に日が差し込むような気持ちになれる
 『人魚が逃げた』と筆者

 世界には童話や昔話、沢山の物語がある。私たちはその物語から教訓や学びを得ようとするが、受け手によって感じるものは当然違う。また、物語をどの登場人物の視点で見るかによっても話は違うものになる。

浦島太郎

 子供たちにいじめられている亀を助けたお礼に、竜宮城に案内される浦島太郎。乙姫から数日もてなされた後、「母親が心配してると思うから帰る」と言い、開けてはいけない玉手箱を渡され、地上に戻る。

 すると地上では数百年が経っていた。絶望して玉手箱を開けると、数百年の時が流れてお爺さんになってしまった。

 「良いことしたのになんでやねん!」

 と、教訓が見当たらないことで有名な浦島太郎。どう考えても乙姫が悪に見えるが、浦島太郎は実際どれくらいの間竜宮城に滞在したのかを調べてみると……。

 「3年」

 いすぎやろ。それで、「親心配やから帰る」。

 嘘つけ! 飽きただけやん!! 鯛や平目の舞踊り3年見続けたら飽きる気持ちも分かるけど!!! でも、玉手箱はやりすぎだろう。数百年経った世界で浦島太郎から「若さ」という名の「希望」と「力」まで奪うのは、残酷ではないか?