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『人魚が逃げた』(青山美智子 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第2回

正解なき物語の魅力

 3年の間に乙姫と浦島太郎は、夫婦のような関係になっていたらしい。

 となると、若く魅力的なまま地上に残したら、他の女に取られてしまうという嫉妬が乙姫にはあったのではないだろうか? 乙姫は捨てられた? つまり浦島は鯛や平目の舞踊りにだけではなく乙姫にも飽きたスケコマシ!女の敵なのだ!

 いや、ちょっと待て。そもそも竜宮城のご馳走って何?

 地上の物は手に入らないから、海産物だろう。海藻類とかだけ? いやいや、人間の浦島太郎がそれだけで生きてはいけない。せめて魚……。でも、竜宮城の者たちにとって魚は仲間……でも、浦島太郎を生かすためには必要、じゃあどんな魚を食料にするのか? それは……

 「舞い踊れなくなった鯛や平目」

 踊る体力を失った者、または踊りの下手な者から食料とされた。そしてそれを支持できたのは乙姫ただ一人。浦島太郎は仲間を食糧として自分に与える乙姫に恐怖心を抱き、逃げ出したのではないだろうか? そして、逃げ出す準備のために3年を費やし……いすぎやろ! とにかく3年はいすぎや!!

 もちろん、語り継がれる間にストーリーは変化しているので、違う設定の浦島太郎もある。物語に教訓などない。受け取る側がそう感じているだけ。

 正解がないから面白い。

 しかし、不遇な物語の中のキャラクターは辛いかもしれないが……。