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『人魚が逃げた』(青山美智子 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第2回

心に差し込む光

 歩行者天国を行き交う人々の群れ、その全ての人に物語がある。そして、決して自分が見ていることだけが自分の物語の全てではない。

 歩行者天国の12時から17時の間は、全ての信号が止まる。車道も歩道も関係なく人々が行き交う。日常の中に現れる非日常の空間、そこで各章5人の主人公は、王子と言葉を交わす。その出会いは自らの人生を見つめ直すきっかけとなり……。

 人魚は見つかるのか?

 王子は一体何者なのか?

 冒頭で「雨上がりの空のような晴れやかな気持ちになれる小説だ」と書いたが、話の中で雨が降っているシーンはない。5人の主人公の心模様がいずれも曇り空で、そこから一歩を踏み出す決意を固めた時に、日が差し込んでくるような晴れ間がのぞくようなそんな映像が脳裏に浮かぶ。

 エピローグまで読み終えた時、私の心にも日が差し込んだ。

 読み終えた後にもう一度すぐに読み返したくなる。読み返さずにはいられない。日常の中に紛れた非日常。本を読む楽しさが詰まった一冊。

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  • 書名 : 人魚が逃げた
  • 著者 : 青山美智子
  • 出版社 : PHP研究所
  • 書店発売日 : 2024/11/14
  • ISBN : 9784569857947
  • 判型・ページ数 : 四六判・232ページ
  • 定価 : 1,760円(本体1,600円+税10%)

(毎月29日頃、掲載予定)