2025年8月のつれづれ(「浪曲陰陽師 琵琶玄象」、「浪曲巷説百物語 小豆洗いの巻」、注目の公演)

杉江松恋の月刊「浪曲つれづれ」 第4回

注目の公演、「REBORN!」と「豪華浪曲大会」の見どころ

 手前味噌な話題ばかりになってしまった。今後の公演予定について書いておきたい。

 8月の注目興行としては、30日「浪曲音楽部 REBORN!」を挙げたい。浪曲師の出演は東家孝太郎、港家小ゆき、天中軒すみれ、東家志乃ぶで曲師は佐藤貴美江、沢村道世、佐藤一貴である。

 出演者の共通点は、浪曲入りする以前や現在に、他の音楽をやっていた経験があることだ。浪曲は語り物だが、それをあえて声楽と楽器演奏という観点から見直す会なのである。

 架空の部活である浪曲音楽部は、顧問として日本浪曲協会副会長の佐藤貴美江が就いている、という設定になっている。佐藤貴美江にも実はシンガー・天川流那というもう一つの顔がある。浪曲についての先入観を打ち壊してくれるような会になるだろう。もう浪曲は十分に聴いた、という方も足を運んでみる価値はあるはずだ。

 先の話も。日本浪曲協会は、毎年秋に「豪華浪曲大会」を開催している。本年度、第58回の内容が発表になった。2025年11月28日(金)と平日の開催である。昼夜公演で、昼の部は12時15分、夜の部は17時30分開演となる。出演者は以下の通り。

 昼の部は「東西競演」と題して、日本浪曲協会会長・天中軒雲月と浪曲親友協会会長・京山幸枝若揃い踏みが実現する。曲師はそれぞれ沢村博喜と虹友美だ。東の玉川奈々福と西の春野恵子が掛け合いで「瞼(まぶた)の母」を共演するのも興味深い(曲師は広沢美舟と旭ちぐさ)。この二人は菊地まどかを加えたトリオで「浪曲乙女組!」として全国公演を行ったこともある。故・国本武春が仕掛け人だ。

 それ以外もバラエティ色の強い演目が並んでいる。澤雪絵の落語浪曲「大山詣り」(曲師・玉川鈴)に玉川祐子・太福の浪曲漫才、特に見逃せないのが富士琴美のマジック浪曲だ。これまで存在は知っていたが、実際に目にしたことは私もない。マジックと浪曲、どのように融合するのか絶対に見届けなくては。

 夜の部は東西若手の期待株が顔を揃え、「全員ネタおろし」というこれまた注目すべき番組となった。トリは国本はる乃で「佐倉義民伝甚兵衛渡し」(曲師・沢村道世)、モタレでは富士綾那が落語由来の「だくだく」を読む。曲師は、脚色も担当する沢村博喜である。その他、フラメンコギター奏者でもある天中軒景友は広沢美舟の力を借りて三味線ギター浪曲に挑戦、真山隼人・沢村さくらコンビは近松門左衛門原作「女殺油地獄」を口演する(脚色・土居陽児)。

 個人的には、東家千春が沢村理緒の三味線で中川明徳作の「花のお江戸の一心太助」を演じるのに注目している。一心太助は講談の定番で、かつては浪曲でも口演機会が多かった外題の一つだが、最近は絶えてしまっていた。それを現代に復活させてくれるというのは実に楽しみである。

 11月28日は、今から有給休暇をとって日本橋公会堂へ。浪曲ファンの約束だ。

豪華浪曲大会 特設サイト

(毎月9日頃、公開予定)