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第一話 「危機感をあなたに」

令和らくご改造計画

#2

 そのぬるま湯に甘えた芸人は、だいたいお客さんを喜ばせる気がない。だからウケない。

 念のために補足すると、「ウケる」というのは、客席に笑い声が起きることだけを指すわけではない。喜怒哀楽、どんな感情でも良い。とにかくお客さんを夢中にさせて、その空間を少しでも充実させられたならば、それは「ウケた」と言えるだろう。

 けれど、そんな危機感のない無気力な芸人の高座中は、客席にも明らかな「無関心」が立ち込める。そもそも演者側がウケたらラッキー、くらいにしか思っておらず、お客を楽しませる気もない。

 本当にそんな空間がこの世にあって良いものか。せっかくお金を払って観に来た人たちに、楽しませる気ゼロの落語を聴かせる。

 ──ダメに決まっている!!

 もちろん、「ウケようとしてスベる」のとは話が別だ。「いやいや、みんなウケようとしてスベってるだけでしょ?」──そう思いたかった。

 僕も最初は、そう信じていた。だがしかし、この業界には確かに存在するのだ。ウケようとせず、ウケない──そんな化け物のような噺家、妖怪芸人が。

 そんな彼らも、最初は「人間」だった。

 人間だった頃は、一生懸命だった。高座のたびに試行錯誤し、上手くいってウケたり、そして、スベったり。しかしそんなスベリが何度か続いたある日──心が折れてしまう。

 そんな時、ふと耳に入ってくる囁き──

 「ウケなくていい」
 「自分の美学を貫け」
 「お客を気にするな」

 そうこれは、代々の妖怪芸人たちが自分たちの心を守るために繋いできた“呪いの思想”である。