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第一話 「危機感をあなたに」

令和らくご改造計画

#3

 この呪いに取り憑かれると、徐々に人間の心を失っていく。

 もともとは「媚びずにサラッと自分の芸をやってウケる」高座を目指すような教えを、都合よくねじ曲げて解釈した末路がこれだ。

 結果的に、ウケなくていいわけがない。ウケない芸人に需要はなく、どう考えても売れるわけがない。

 しかも、この“妖怪化”は、若くして始まることもある。

 僕も入門から数年して、ウケない自分に本当に悩んだ時期があり、突然坊主頭にしたこともあった。当時は「見た目を変えればウケるかも」などと思い込んでいたのだが、芸の本質を見失っており、師匠に本気で叱られた。

 あの時、自分があのまま妖怪芸人になってたら……と思うとゾッとする。

 妖怪化が進むと、まず目が据わってくる。そして言動がやたら落ち着いてくる。よく見るとちょっと、角とかも生えている。

 その後は座布団に座り、ただただ客席を静まり返らせる。

 そんな妖怪芸人と化した先輩たちの高座を見せられて、裏方に徹している前座さんは、何を思うのか。

 ──前座さん、申し訳ない。

 「……兄さん、大丈夫ですよ」

 ──あ、この声は……前座の絡繰亭(からくりてい)おち太くん!

おち太 「僕に任せてください!」

 なんでも元・工業高校出身で、モノづくりが得意なんだとか。黒髪短髪・長身で、いかにも真面目そうな青年だ。けれども、今日はなんだか様子がおかしい。