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第一話 「危機感をあなたに」

令和らくご改造計画

#4

僕 「任せるって、何を……?」
おち太 「危機感がないなら、こちらから与えればいいんですよ」

僕 「与える……?」
おち太 「そうです! ……苦肉の策ですが、罠を仕掛けさせてもらいました。今、寄席の座布団の下の床は、真っ二つに割れるようになっています。はい。落とし穴です」

僕 「お、落とし穴!?」
おち太 「僕の判断にはなってしまいますが、これからは数回、“ウケなかったら”底が抜けるようになっています。それでも持ち時間の間は、落語を続けてもらいまして……それでもウケなかった時は、前座が舞台袖からバケツの水を持っていき、穴の上からぶっかけます! それが続くとだんだん水が溜まっていき……最後には、溺れて×にます! これなら、一門のおさがりのお寺の仕事で食っていけるだろうとたかを括っている芸人もいなくなって、落語全体のレベルも上がって、お客さんも喜んで──みんな幸せですよね!!」

 おち太くんの瞳孔は、完全に開ききっていた。

僕 「そ、そうなのかな……」

 確かに、この仕組みなら業界に「危機感」が根づく。みんな文字通り命がけでウケを取りにいく。芸も磨く。

 ついに落語の「底上げ」の時代が……いや、『底抜け』の時代が始まるのか。

僕 「で、でも……いくら落語のためとはいえ、もしも本当に人を×したら君は──」
おち太 「大丈夫です! 楽屋ではよく『前座に人権はない』って言われるじゃないですか。そこを逆手に取るんですよ! 人権のない僕たち前座は、“法的に裁けない存在”なんです! あはは!」

僕 「そ、そうだったんだ……?」
おち太 「そう言う兄さんも、穴に落ちないようにせいぜい頑張ってくださいね! 誰だろうと容赦しませんから! ……あっ、ちょうど今、スベってる芸人がいるんで、それじゃ、行ってきまーす!ぎゃははは!」

 目玉を真っ黒にして笑うおち太くんは、そのままスキップで舞台袖へ向かっていった。