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第二話 「集まれ! 蘊蓄おじさん」

「令和らくご改造計画」

#2

 どうしたものか。

 開演前のアナウンスで「他のお客様への声かけ、蘊蓄を垂れる行為、略して“うん垂れ”はご遠慮ください」と読んでもらうべきか。だが、それでかえって変な緊張感を生むのも嫌だ。

 「クマ注意」の看板を見れば「クマが出るのか…」と緊張するように、そんなアナウンスを流せば、新規のお客様は身構えてしまう。……どうする。“蘊蓄避けの鈴”でも配るか。声をかけられた際、“死んだふり”は効果があるのか。

 ――と頭を抱えていると、そこへ彼がやってきた。

 前座の洗脳亭かえる(せんのうてい・かえる)くんだ。黒縁メガネの奥に見える、やけに澄んだ目が不気味さを帯びている。静かな口調で、いきなり切り出した。

かえる「池○演芸場を使いましょう」
僕「切り出し方、気をつけてね」

 かえるは、落ち着いた表情で続ける。

かえる「池○演芸場は地下二階にあり、出入り口は一つだけ。その客席に“蘊蓄おじさん”を集め、ドアを外からロックします」
僕「それって……監禁じゃないか」

かえる「実際にはそうですが、落語会を装うので、しばらくは気づかれません」
僕「まず第一に、どうやっておじさんたちを集めるんだ」

かえる「簡単です。池○演芸場の地上テケツ(チケット売り場)では、リアルタイムの高座の音が流れています。このスピーカーを改造しまして、昭和の名人の音源を爆音で流すのです。すると『生き返ったのか!?』と、蘊蓄おじさんが次々と客席に吸い寄せられていきます」
僕「そんな……正常な判断力を失っているじゃあないか」

かえる「相手の迷惑に気がつかない人間なんて、そんなもんですよ。……さあ! そうしてドアをロックしたら本番です。一般的な洗脳の手法は、ご存知でしょうが」
僕「知らないよ」

かえる「精神の“崩壊と救済”です。ですので、まず彼らの精神を崩壊させなくてはならない。そのために必要なのは……」