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異国の路地、迷子の入口

「二藍の文箱」 第5回

異国の路地、迷子の入口

前略、空の上から(画:ひびのさなこ)

三遊亭 司

執筆者

三遊亭 司

執筆者プロフィール

再見、美麗島

 ひさしぶりに海を渡って、国外へ出た。

 飛行機の中では原稿を書いて、ビールを飲んで、読書。地べたにいる時とすることは変わらない。

 席の目の前にあるモニターに、なにも映されないのも味気ないので、スカイコンパスという画面にしている。現在の位置や高度などがランダムにうつされている。

 本から目を離すと、ふと「出発地の現地時刻」というのが目に留まった。

 18:54

 出発地は台湾松山空港なので、日本時間だと19時54分ということになる。

 1時間遅い国に、飛行機は2100キロの距離を、3時間かけて向かっている。台湾で18時45分というと、そろそろ夜のビールを気にし出す時間だ。きょうはどこで何を買ってこようか。立ってるだけでも暑い街中で、拙い中国語を使い、夜市や食堂で酒肴を買ってくるころだ。

 さっきまで、日本に帰るのが寂しいなどとは、少しも思っていなかった。むしろ、どれだけ楽しい旅でも、どれだけ好きな場所でも、きちんと決まって帰りたくなる。どこへ旅してもそれは同じで、帰宅してから旅を想うのだ。だから、旅はいい。

 台湾へは、もう何度来ただろうか。台湾は暮らしているように旅ができるのがいい。

 そんな遊びも、航空券が高くなり、台湾元が強いのと日本円が弱いのとが重なり、そうそうできなくなった。おまけに宿代が上がっているのも洋の東西を問わず同じことだ。そういうことを考えないで、行きたい時に行く旅がいい。

 帰宅して旅を想う。

 バックパッカーよろしく、身軽な旅をしてみるのはどうだろうと思ったが、航空券など減らない部分がどうも大きいようで、それなら変わらないや、となる。

 ここに泊まれば朝はここで食べ、この夜市に行き、昼はここでお茶を買おう。日本にいながらにしてそんなことを考えること自体、やはり旅だ。