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となりは鼻うがいをする人ぞ

「マクラになるかも知れない話」 第三回

娘が遠ざかる夜

 どうしたものか……と思っていたところ、とある先輩より「鼻うがい」なるものを教えていただいた。

 鼻うがいとは、生理食塩水などの洗浄液を鼻腔(びこう)内に流し込み、鼻の中に付着した細菌等を洗い流すことで、風邪を予防しようというアレである。

 この先輩によれば、鼻うがいをするようにしたところ、風邪はおろか鼻詰まりや喉のかすれなど全てが予防・改善され、快適な噺家ライフを送ることができるようになったとのこと。

 良いことを教えてもらった。早速、専用の鼻うがいセットを買ってきて、やってみた。

 どうだったかというと――

 すっっごい苦しい。

 苦しい。なんだこれ。いやもう苦しいどころか、ぐるぢい。めちゃくちゃむせるし、痛いし、眉間のところにギンギンくる。「がばがばがば! ぐえええええ」となる。

 毎晩毎晩だ。「がばがばがば! ぐえええええ」

 毎晩毎晩、父親が「がばがばがば! ぐえええええ」するものだから、2歳の娘が近寄らなくなる。不安そうに遠巻きに見てくる。

 「がばがばがば! ぐえええええ」
 「ママ、パパは何をしているの?」
 「……見ないの」

 しかも終わってから、いくら鼻をかんでおいても10分後くらいに、どっかにちょっとだけ残っていた水が奥からちゃーって出てくる。耳の方にも水が浸入して、翌日の昼くらいまで耳の奥がバキバキ鳴る。眉間の奥に異物感が残る。

 なんだこれは。こんな思いをして、あの先輩は風邪予防をしているのか。いくら「鼻風邪・喉風邪が噺家の大敵」とは言え、とんでもない精神力だ。