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〈書評〉 笑辞典 落語の根多 (宇井無愁 著)

「芸人本書く派列伝 クラシック」 第6回

絶版の名著に光を

 上で見たように、ページを開けば必ず何か収穫のある本である。ただし少し前に、そういえば「寿限無」の原話はなんだったっけ、と調べたくなり、この本を手に取ったがわからなかったということがあった。すべてを網羅しているわけではなく、代表的な噺に絞ったと著者は断っている。だから上に挙げた11の噺というのも、あくまで本書に収録された中では、ということである。

 「寿限無」については巻末の「上方落語演題一覧」で「長名の倅」として挙げられており、「日本昔噺集成」に「長い名の子」佐々木喜善『聴耳草紙』に「長い名前」で類似の話が収録されているとの記載があった。

 宇井は1909年(明治42年)に大阪府で生まれ、早稲田大学高等学院中退後に松竹関西派劇団脚本作家となり、1938年(昭和13年)に「ねずみ娘」がサンデー毎日大衆文芸第1席を獲得して作家としてデビューを果たした。翌年発表した「きつね馬」で第9回、同年の「お狸さん」で第10回の直木賞候補にもなっている。ユーモリストとして、また落語の研究者として長く活動した人物である。

 その著書はほとんど絶版状態である。『落語の根多』だけでも、どこかで復刊してもらえないものだろうか。類似の落語辞典は他にもあり、そちらのほうが項目の充実度などは上だと思うが、宇井の調査結果に多くの人が触れられるようにしてもらいたいのだ。

(以上、敬称略)

現在は絶版となっている
  • 書名 : 笑辞典 落語の根多
  • 著者 : 宇井無愁
  • 出版社 : 角川書店
  • 書店発売日 : 1976年11月
  • ISBN : 9784041388020
  • 判型・ページ数 : 文庫判・634ページ
  • 定価 : ―

(毎月29日頃、掲載予定)