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四合目 ~京都漫遊記 〈弐〉

「伯知の日本酒漫遊記 ~酒は“釈”薬の長」 第4回

寺田屋でささやかれる御色気逸話

 龍馬に思いを馳せつつ、立ち寄ったのは寺田屋である。大坂と京都を結ぶ三十石船(さんじっこくぶね)。その発着地の1つ、南浜の船着場を持つ大きな船宿が寺田屋だった。かつての寺田屋は、鳥羽・伏見の戦いで焼失しているが、後に再建したのが現在の建物である。

寺田屋

 ここを舞台にした有名な「寺田屋事件」というと2つの出来事を指す。文久2年(1862年)、薩摩の攘夷急進派が鎮圧された寺田屋事件(騒動)、そして慶応2年(1866年)、坂本龍馬が幕吏に急襲され命からがら脱出した寺田屋事件。

寺田屋の一室

 だが世間一般のメジャー度でいうと、後者の「坂本龍馬襲撃の寺田屋事件」のほうが、この令和の世でも人気らしいことが現地でわかった。というのも、この寺田屋の前を歩く観光ツアーの一団も、中で写真を撮ってる観光客も、皆口を揃えて、

 「お龍さんが裸でさ…」
 「お風呂から裸で……」
 「裸のままで走ったんでしょ…」

 と話しているのである!

 入浴中のお龍さんが幕吏の気配を悟って、急いで階段を駆け上り龍馬に危険を知らせる。小説、映画、ドラマで必ず描かれる寺田屋事件の名場面ではあるが……、観光客のみんながみんな、お龍さんの裸の話しかしていなかったという……。そして中に入り内部を見学すると、例のお風呂場。その貼り紙に

 「裸のお龍さんで有名なお風呂です」

 ……世に残るは、志士の奮闘より御色気逸話なり。

寺田屋のお風呂