きゃいのう、 崇徳院、 ぞろぞろ
「オチ研究会 なぜこのサゲは受けるのか?」 第7回
- 落語
林家 はな平
2025/11/06
ぞろぞろ (画:おかめ家ゆうこ)
奥深い「オチ」の世界
落語には、「オチ(落ち)」があり、そこにはいろいろな仕掛けや工夫が込められています。本連載では、〈演じる側の視点〉から、筆者なりにオチのタイプを★〜★★★で分類し、[あらすじ][オチ][解説]の順に紹介します(★の数は、第1回をご参照ください)。
第7回は、きゃいのう★、 崇徳院★★、 ぞろぞろ★★★のオチを紐解きます。
十九席目 きゃいのう ★
[ワンポイント]
この噺の面白さは、芝居の本番よりも「楽屋の空気」にある。床山とのやりとり、間に合わせのカツラ、いい加減な判断。その場しのぎが積み重なり、最悪の形で幕が上がる。その瞬間を想像して聞くと楽しい。
◆【あらすじ】
市川団十郎の弟子という団子兵衛(だんごべい)という役者がいざ出演することになり、床山へ行くと、自分のカツラが用意されていない。訳を聞くと、「初日に挨拶に来なかったから数が合わない、役者の法を知らないお前が悪い」と怒られる。
しかし、猪や馬の役しかもらったことのない田舎出身の役者のこれまでの悲しい役どころの話を聞いた床山が、仕方なく今回の腰元(こしもと)のカツラを用意することにする。
ところが当のカツラがない。あるのは、相撲取りが余興で使った大きなカツラ。このまま被ると、大き過ぎてガバガバなので、中に南京豆(なんきんまめ:落花生)の皮を詰め込む。ところで、セリフは何なのか聞くと、一言「きゃいのう」だけだと言う。
幕が開いて、腰元三人が掃除をしている。そこに乞食がやってきて、一人目の腰元が「むさくるしい」、二人目が「とっとと外へ行(ゆ)」、そして自分が「きゃいのう」と、芝居の割り台詞(わりぜりふ)の一部だった。
いよいよ舞台に上がる団子兵衛を見送る床山に、弟子が言う。「さっき親方が吸ったタバコの吸い殻が南京豆の殻の中に入りました」
慌てて舞台を見ると団子兵衛の頭から煙が出ているが、芝居はもう始まっていた……
◆【オチ】
一人目の腰元 「むさくるしい」
二人目の腰元 「とっとと外へ行(ゆ)」
と来たが、団子兵衛のセリフがなかなか出ない。緊張してセリフを忘れたのか、こうすれば思い出すだろうと、団子兵衛の尻をつねると、
団子兵衛 「うーん、熱いのう」
◆【解説】
噺自体は面白いが、オチのパンチが弱い。
「きゃいのう」が「熱いのう」になっただけで、噺のどこかにかかっているわけではない。「きゃいのう」と「熱いのう」の韻にも無理がある。取ってつけたようなオチなのは否めない。ただ、割り台詞の場面は本当に馬鹿馬鹿しいので、やっていて楽しい。
初代・柳家三語楼(やなぎやさんごろう)作と言われ、『武助馬(ぶすけうま)』という噺を改作したと言われている。
今でこそ歌舞伎というのは、歌舞伎座や新橋演舞場のような大きな会場でやるイメージだが、昔は小屋もたくさんあって、役者もすべてがプロというわけではなく、セミプロや場合によっては素人でも芝居をやっていたわけで、そんな時代の噺である。この舞台も、そんなセミプロのような人たちの集まりなのかもしれない。
いわゆる大部屋さんの世界を描いているわけだが、現在でも研修生上がりの役者さんたちは、同じ楽屋に何人かで入って支度をして、日々舞台に立っている。歌舞伎は主役と脇役だけでは成り立たず、町民や家来などその他大勢たくさん出てくる、それがないと舞台ができないのだ。
知り合いにそんな役者さんがいるが、観に行くとやはりセリフは少しで、本当に大変な世界だと思わされる。すべてのセリフを喋れる噺家は恵まれているのかもしれない。
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