シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト

月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回

すべては菊太楼師匠との駄話、駄飲みから始まった

 東京・上野の繁華に、時代のついた一軒の居心地のいい飲み屋がある。

 間口1間ほどのこじんまりとした玄関を抜けると、縦長の空間が広がる。4~5人用のテーブルが右手に3卓、左手のカウンター席は4~5席。常連客が楽しげに集っている中に時折、落語家や色物の先生、お囃子さんといった演芸関係者を見かける。

 店名はF作。おでんがウリで、現金しか使えない。

 上野鈴本演芸場やお江戸上野広小路亭で演芸時間を楽しんだ後、私は大抵ひとりで、そこへ向かう。会場で偶然、知り合いの演芸ファンに会ったりすると、お誘いしたりする。鈴本に出演している演者に「行きませんか?」とショートメールを打つこともある。

 取材場所として利用することもある。スピーディーにインタビューを済ませてから、「さて飲みましょう」とはならず、酒を飲みながらのインタビューになる。言葉はICレコーダーが拾ってくれているから困らない。スマホの文字起こしアプリは、まだ適切に言葉を拾わない。

 その日、誰のトリの芝居を聞いた後にF作へ向かったのかは覚えていないが、時刻は2024年5月18日(土)の午後9時過ぎ。明確な記憶として刻まれている。

 その日こそが、シン・道楽亭時間の午前0時。

 F作は、私にとってちょっと怖い場所でもある。懐が温かくない時は、行かないようにしている。年下で取材等でお世話になった芸人がいると、ついつい「いいよ」とお勘定を持ってしまう自分が、酔いに任せて出現するからだ。時々、持ち合わせがなく「つけといて」、店に無理を言ったりする。

 ふと、ペペ桜井先生を思い出した。昨年、F作で先生がお囃子(はやし)の恩田えりさんと飲んでいる時に、ご一緒させていただいた。

 それよりもずいぶん昔になるが、ペペ先生とは『東京かわら版』の新年会でごあいさつしたことがある。私が名刺を差し出すと、「この名前なら原稿(の署名)で見たことがあるよ」と、『渡邉寧久』という字面を記憶してくださっていたことがあった。

 それ以来のお近づきだったが、あれこれしゃべって、飲んで、そして「いいよ、いいんだよ」とごちそうになったことがある。先生、お元気だろうか。愛用のギターも手放したと聞いたが……。