シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト

月刊「シン・道楽亭コラム」 第7回

 話はこんな風に本筋から逸れつつも、また元を目指す。

 改めてシン・道楽亭の午前0時だ。

 その日、F作にいらしたのは、古今亭菊太楼師匠とおかみさん、菊太楼師匠の落語会によくいらっしゃる、チャーミングで妙齢でビール好きのご婦人Tさん。私が店を訪れた時には、3人でテーブル席に着席していた。すぐさま「一緒に飲みましょう」ということになった。

 芸人と打ち上げ等で飲む時に、芸談やそれに近いことをひけらかす方々がいるが、それだけはしないように心がけてきた。

 よく、落語家が高座で冗談めかしてしゃべることがある。「噺家に小言(こごと)をいう時は、小料理屋にでも案内して、うまいものを食べさせて、お酒を飲ませて、ご祝儀(しゅうぎ)を渡して」という具合に、飲食と祝儀を条件に小言を伝えたいのなら、それはそれでよろしいが、日本海庄屋の割り勘の打ち上げで小言を言うのは野暮の骨頂だ。

 菊太楼師匠ご一行と飲むことになったが、普段の心得を胸に、小言やネタに関する評論めいた話は、何ひとつしない。聞かれれば答えるが、ご陽気に酔っぱらっているご夫妻が聞いてくることもない。話の中身にインテリゲンチャっぽい片りんは1ミリもなく、基本、駄話がパーパーと場を支配する。酒酒おでん駄話酒酒、という感じで流れゆく楽しい時間。ああ、愉快だね。

 そのさなか、道楽亭の話になった。

 道楽亭で開催される落語会が、頻繁に中止になっていることはツイッター(現X)で存じ上げていた。オーナーの橋本さんの体調が思わしくないことも、聞き及んでいた。いずれ、体調が回復し、再開されるのだろうと思い込んでいたのだが。

 「辞めるみたいですよ」

 まさかそこまでとは!と漠然と考えていた私は、菊太楼師匠の言葉に「そうなんだ」と驚くしかなかった。