師匠と香港楼と命名秘話

シリーズ「思い出の味」 第16回

祖母の字が繋いだ、私の芸名

 さて、では何が宜かろうかと振り出しに戻りますと、「好きな言葉、思い入れのある字か何かはない?」と師匠が助け舟を出してくださいました。

 蘭(らん)お姉さんは「蘭」の花が好きとのことで名前が決まり、松林伯知(しょうりんはくち)お姉さんの前名・真紅(しんく)は「真」の字が本名、紅佳(べにか)お姉さんは「佳」の字が本名。そして「本名の字は、貴方のご両親が一生懸命考えて付けてくださった大切な名だから、その字を使うのもとても縁起が良いのよ」と。

 これを聞いてパッと思い浮かんだのが、「純」の字でした。私の本名「あずみ」は平仮名ですが、「ずみ」の響きは、父方の祖母「すみこ」から来ています。祖母の字は、本来「澄子」と書くのですが、「私は『澄』を使えるほど綺麗じゃないから恥ずかしい」と「澄」の字を使わずに、祖母は絵を描く折などのサインや日常では「純子」と書いて通しておりました。

 その話が子供心にとても印象に残っていたのと、幼少時分から私はその祖母によく似ていると言われており、子供の頃は「おばあちゃんと似てるなんて、自分は子供なのにそんなに老けてない」などと反発心もありましたが、今になって思えば、もちろん言わんとする意味も分かるし、その後何かと影響を受けた魅力的なおばあちゃんでもありました。

 この話を師匠に致しますと、「純」の字はなんと、あの紅葉お姉さんの本名も「純子」であるということもあり、これは何かの縁かもしれない、それに紅純は糸が二つ入っているから着るものに困らない縁起がいい字。ということで、「紅純」と字面が決まりました。

 後は読み方です。ベニズミかコウジュンかコウズミか……ベニズミはさつま芋みたいだし、コウズミはよく分からない、コウジュンが語呂も響きも良いだろうと、此処にようやく「みのり」改メ「紅純」の誕生と相成ったのでございます。