第五話 「ヨセジャック事件」

「令和らくご改造計画」

#4

 さて、どうしたものか。

 6名とはいえ、大切なお客様が人質になっている。そしておち太くんの過去の行いを考えると、何をしでかすかわからない。何かあってからではまずい。

 これは洒落にならないぞ……と頭を抱えていると、背後から、落ち着いた声がした。

 「兄さん、僕に任せてください」

 振り向くと、前座の長亭いちばん(ちょうてい・いちばん)くんが立っていた。彼はいわゆる「前座会長」という、前座の中でいちばん芸歴が長く、間もなく二ツ目昇進も控え、前座全体をとりまとめる役目を負っている。

いちばん 「最近、暴走する前座が立て続けで、どうしたものかと思っていたんです。とうとうこんな事件まで起きてしまって……」
僕 「本当に、一体なにがなんだか。君から見て、彼らはどう映ってる?」

いちばん 「正直、今のおち太は、手がつけられません。そして『前座にもマクラを』という意見自体は、わからなくもないですが、昇進を控えた僕にはわかります。前座期間には、制限があるからこそ見えるものがあるんですよね」

 やはり、よくわかっている。こういう話の通じる前座さんがまだ残っていたとは。安心した。

僕 「とはいえ……現にお客さんを巻き込んでるわけで…どうしよう」
いちばん 「大丈夫ですよ、彼らも所詮『前座』ですから、共通の弱点があります」

 彼は、きっぱりと言った。

僕 「それって」
いちばん 「はい。それぞれの師匠方に出ていただきましょう」

 彼はポケットからメモ帳を取り出しながら、手短に段取りを説明する。

いちばん 「まず、立てこもっている前座を特定し、それぞれの師匠に拡声器で『破門』を言い渡してもらいます。『おち太!お前は破門だ!』と。そうすると前座たちには、すぐに師匠のうちに謝りに行く習性がありますから、慌てて飛び出してくるでしょう」
僕 「なるほど」

いちばん 「そうやって、寄席からのこのこ出てきた瞬間を狙って、外で待機している警備部隊に、ネットランチャーを撃ってもらいます。猛獣用の強力なやつです。さらに安全のために、少し電流も流しておきます」
僕 「安全……?というか、そもそも、捕まえなくても師匠方に注意してもらえばそれで済むんじゃあ……?」

 止める間もなく、いちばんは刑事さんと何やら話をつけに駆け出していった。話の筋だけ聞けば、一応、誰も血は流れない計画ではあるし、まあいいか。