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〈書評〉 香盤残酷物語 落語協会・芸術協会の百年史 (神保喜利彦 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第8回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/12/24
前座から真打、その先まで
記述は2024(令和6)年の最新版まで続いているので、あなたや私の知っているあの落語家も当然顔を出している。真打昇進だけではなく、誰がいつ前座として寄席に入り、何年に二ツ目になったか、どのタイミングで改名・襲名をしたかということにもすべて触れられているので、落語家紳士録の性格もある。
さらに言えば、落語家として入門はしたものの途中で夢破れて廃業、あるいは師匠から破門された者の名前も記されている。
1996(平成8)年の項に「鈴々舎馬賀正は馬風の弟子。コント「ガッポリ建設」の室田稔として活躍する」「一九九五年、馬風に入門。高身長を理由に「鈴々舎たけ馬」と名付けられたが、あまりにも粗相ばかりするので馬風の怒りを買い、「お前のような馬鹿は鈴々舎馬賀にしろ!」と一九九六年二月一日に改名を命じられた。当時本人はこの名前を気に入ったようであるが、改名報告を見た大師匠の小さんが「馬賀はかわいそうだ」と馬風に意見し、同年二月中旬より「馬賀正」と改名した」とある。このように落語家それぞれについて短く情報が付されているのが楽しい。
節度があっていいのは、文献にはっきりとした記述があるもの以外、廃業、破門や移籍の事実を書くのみで、詳細には触れていないことである。醜聞を好む向きはそうした際にあれこれと不確かな情報を囁き合い、それが噂となって残ることもあるのだが、一顧だにしないのは清潔でいい。
副題にあるとおり、一冊で落語協会と落語芸術協会の全貌を俯瞰することができる、またとない好著である。歴史的記述については原典主義で信頼できる書き手なので、歴史的事実を確かめるための参考書としても活用できる。
たとえば落語協会の女流真打という制度はいつ始まってどのように廃止されていったのか、落語芸術協会の香盤はいつから落語と講談で分かれるようになったのか、といった事実は漠然とは知っていてもなかなか正確なところはわからない。そうした変遷についても、もちろん丹念に拾い上げられている。
全国落語ファン垂涎の書ではあるのだが、今のところ本書は一般書店では販売されていない。通信販売のみのようなのだが、販路はこれから広がっていくことだろう。興味がある方は著者の名前で検索してみてもらいたい。気が向いたら「藝かいな」の購読も。毎月これが届く生活というのはなかなか乙なものである。
(以上、敬称略)
▼「香盤残酷物語 落語協会・芸術協会の百年史」夜霧書林(BOOTH)
(毎月19日頃、掲載予定)
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