〈書評〉 香盤残酷物語 落語協会・芸術協会の百年史 (神保喜利彦 著)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第8回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/12/24
香盤が語る真打昇進の真相
前回の「芸人本書く派列伝クラシック」で八代目桂文楽の『あばらかべっそん』(ちくま文庫)を紹介した際、五代目柳家小さん襲名にまつわる騒動があったことにも言及した。文楽が信念を貫いたことで香盤関連が紛糾する。いったん収まったかに見えても何かきっかけがあればこじれた感情は再び燃え上がり、新たな禍根を残す。遺された香盤にはそうした揉め事の痕跡が見事に刻み込まれている。
前述した古今亭志ん朝の真打昇進は、1962(昭和37)年3月下席のことである。「志ん朝は36人抜きをした」と言われるが、そんなに「飛ばせる人材がいない」と神保は指摘し、実際に誰を抜いたのかを列挙する。いずれも当時の名前である。
――三遊亭歌太郎、林家照蔵、柳家小ゑん、柳家小山二、金原亭馬太郎、三遊亭歌橘、橘家升蔵、三遊亭朝之助、春風亭枝之助、むかし家今松、柳家小團治、三升家勝弥、橘家若蔵、三遊亭全生、林家勢蔵、柳家楽之助、三遊亭さん生、金原亭金助、柳家小延、三遊亭好生、三遊亭朝三
以上21人で、廃業した者を入れても36人には程遠い。これは、後年の春風亭小朝の36人抜きとごっちゃになったものが検証されないまま通説として流布してしまったのだろう、と神保は推測する。そういえばそうかもしれない。
春風亭小朝の真打昇進は、1980(昭和55)年5月上席である。このとき抜いた36人も書き出しておこう。これも当時の名前だ。
――三遊亭旭生、むかし家今松、三遊亭小歌、林家ばん平、三遊亭歌司、金原亭駒三郎、橘家竹蔵、林家九蔵、古今亭志ん三、柳家さん八、橘家升蔵、柳家さん治、柳家さん喬、立川談十郎、金原亭駒三、五街道雲助、三遊亭梅生、柳家さん枝、林家辰平、金原亭駒八、春風亭一朝、三遊亭勝馬、立川左談次、柳家せん八、林家源平、柳家小里ん、林家種平、林家上蔵、古今亭志ん太、蝶花楼花蝶、立川談生、立川小談志、古今亭八朝、林家らぶ平、立川談四楼、柳家さん光
人間国宝も含め、現代落語界の重鎮たちが顔を並べていて壮観である。1980年には私も落語少年のはしくれだったので、当時の騒ぎというものははっきり覚えている。こうした具合に誰が誰を抜いて真打になったか、ということが毎回明確に書かれており、そうした記述にぶつかるたびに、書き出された名前の一つひとつを玩味しながら見てしまう。
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