第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」

「令和らくご改造計画」

#5

 しん作自身も、それを感じていなかったわけではない。

 高座を終えて楽屋に戻るとき、自分がいま、どこに立っているのか、ふとわからなくなることがあった。

 古典をかければ、新作派から「逃げたな」と言われる。新作をかければ、古典派から「そんなことやっていないで」と言われる。どちらを選んでも、「違う」と言われる場所に立ち続けるのは、思っている以上に体力を奪われる行為だった。

 そして、いつまでも「どちらかでなければならない」という理屈が、理解できなかった。落語とは、本来そういう歴史を持つ芸能ではない。これは、たかだかここ数十年で生まれた、昨今の風潮である。

 そう頭ではわかっていても、精神は次第に蝕まれていった。

 そして事件の前夜、しん作は、ある噺家と楽屋で言い争っていたという。

 その相手は、とある古典派の真打。芸歴は、しん作の倍以上にもなる。高座を降りてきたしん作に向かって、その師匠は何かを言った。

 この業界には、重い身分制度がある。真打が二ツ目に何か言い、それに口答えされるなど、まずあり得ない。

 ――しかし、その日のしん作は違った。

 冷静に、しかし強い口調で、「……意味がわからない」と漏らした。

 突然のことで、あたりが、しん、と静まる。

 次の瞬間、言われた側の師匠は、顔を真っ赤にして激昂した。掴みかかられ、罵られたが、しん作は、その頃にはもう、抵抗する様子もなかった。ただ、抜け殻のような表情で畳を見つめていた。

 その姿を、楽屋にいた一同が目撃している。
 だから事件の翌日、まっさきに疑われたのは、やはりその師匠だった。

―【解決編】へ続く―

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