〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【後編】
掲載記事300本記念
- 落語
話楽生Web 編集部
2026/01/27
2024年5月11日、よみうり大手町ホールにて(撮影・武藤奈緒美)
五代目柳家小さん師匠の教え「人を磨け」「範になれ」を肝に銘じ、「まっとうな芸を磨くこと」を念頭に落語家生活を送り続けている柳家さん喬師匠。
2024年6月には落語協会会長に就任し、同年10月には人間国宝の桂米朝師匠に次いで、落語家としては2人目の文化功労者に選出された。誰しもが認める“落語界の顔”。
組織を束ね、将来を見すえ、若い人たちを見守る一方で、時に厳しく注文を出す。終点のない芸の道で、今日もできることは一歩だけでも足を踏み出せるかどうかという日常。そして先人から受け継いだ落語という幹を枯らさないこと。
掲載記事300本記念のインタビューも今回の後編で大団円を迎えます。
取材:文=渡邉 寧久(演芸評論家・エンタメライター)
撮影:話楽生Web 編集部
完成形のない芸と、孤軍奮闘の現在地
かみ締めるように、さん喬師匠は言葉をつなげる。
「……これでよし、っていうのは、落語にはないですね。
お芝居にしろ、映画にしてもそうだと思うんですが、要するに人様に感情を伝えるものには、終点はないような気がします」
さらに屈託なく明かす。
「鈴本(演芸場)でバカ受けしたから、よし!って同じ噺を浅草(演芸ホール)でやったら見事に蹴られたぁ、なんてことはしょっちゅうあります、あります」
終点がない、完成形がない分、起きている間じゅう、落語のことを考え、落語に思いを馳せる落語生活。
小さん師匠のように、言葉少なに適宜言葉で導いてくれる人もいなくなった今、「誰に相談することはないですね、ええ、ええ」と、孤軍奮闘で芸に向かわざるを得ない現実に、さん喬師匠は日々向き合う。
「自分で考えて……悩みますね。考えるより先に悩むんでしょうね。
同じ噺、何度もやっている噺でも、ふっと、とんでもない台詞が入り込んでくることがあります。やっぱりそれは、自分が満足していないからでしょうね、きっと。噺に対する不安、噺に対する悩みというか。
例えば『初天神』という噺は、今まで何百回しゃべっているか分からない。でも、新しい発見をするんですよね。自分がやってしまっている惰性の落語の中で、ふっと解釈が変わってくる瞬間があるんです。
悩みって言うほどのことはないにしろ、常にその話をどうしたらいいんだろうか、漫然としていいんだろうかって考える。そういう悩みはありますね」

悩みながらも、心のよりどころになっているのは「まっとうな芸を磨く」という信念。「まっとうな芸」がどういうものなのか。解釈は難しいが、さん喬師匠は「例えば豆腐を一丁、作るんでも」と分かりやすい例えを持ち出し、核心の周辺から核心のまん真ん中へと解説を進めていく。
「自分が教わったことを忠実に、忠実に、ひたすら忠実にやることによって、自分の豆腐を作り上げることができる。作る過程でゴマを入れたり、卵を入れたりといった工夫をすることもできますが、自分の豆腐は師匠から教わってきた、そのまんまの豆腐。
これが(お客様に)受け入れられるようになった時にはじめて、この豆腐を大事にしながら、ゴマを入れたらどんな豆腐ができるんだろうか、って工夫ができるようになる。
今は、『まっとうな豆腐』を作る前に、若い人はゴマ豆腐のことを考えちゃっていますよね。『落語を押し曲げたほうが面白くなってるんだ』って考えている若い人が増えている。道をまっすぐ歩いていれば、そこへ到達するだろうけど、必ず近道したくなる。でも実際は、その近道は遠回りになっちゃってることなんですよね」
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