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謂れなきものたちの飛躍

「艶やかな不安の光沢」 第1回

 さて、そうして年が明けた。午年。私は年男である。黒紋付の噺家がぞろぞろと華やかにやってきて、また去っていった。正月の飾りさえ、ピンからキリまである。私はあの風景が、好きである。
 年明け早々、こんなことがあった。
 ある落語会の仲入りで主催者とのトークがあり、私は今年の抱負を聞かれた。またこの季節がやってきた、と思うと同時に、私はこの質問への苦手意識を一年ぶりに身に感じ、そうしてとうとう私が言った言葉は、「飛躍の年にしたいです」という、実にありきたりなものであった。

 噺家のくせにつまらないことを言うなという、客席の空気が伝わってきた。私はわずかに汗ばむような恥ずかしさを覚えていた。それはお決まりの安い常套句(じょうとうく)を発言してしまった私が悪いのだが、そもそも興味すらなく、聞いていない人もいるなと感じた。
 しかし――見ていろよ、違うのだ、その飛躍は、もう少し謂れのある飛躍だったのだ、という故事つけをしておこうと思う。年始からとちってしまった、一人の売れない芸人を庇うためにも――なぜならば私は『ガラス玉演戯』の中に、少し前、こんな一節を見つけていたから。物語の主人公の少年は言う。

「その意味は、離れる能力、真剣になること、つまり――飛躍することさ! ぼくは、昔の故郷や生活へ飛んで帰ろうとは願わない。ぼくは故郷に引きつけられはしない。ぼくは故郷をほとんど忘れてしまった。だが、ぼくは願っている。いつか、時が来て、必要になったら、張り切って、飛躍できることを。ただ、つまらないものへ飛んで返るのではなく、前へ、より高いものへ飛躍するのだ。」(高橋健二訳)

林家彦三 X

(毎月17日頃、配信予定)