謂れなきものたちの飛躍
「艶やかな不安の光沢」 第1回
- 落語
林家 彦三
2026/02/12
ただ、もっとも、本音を言えばそういうものたちに脅かされる不安すらもないのが呑気なもので、真正面から組み合っていない私は、もちろん、将来についての、漠然とした、言ってしまえば、もうずっとこのような生活なのか、こんな自分の表現を続けてよいものか、というような不安はあるのだが、そういうものたちもまた同じ将来を抱えた同胞のように思っているような節さえあり、つまり、これから流行るものたち、これからより売れようとするものたちに対しているわけであり、いわば横一列の徒競走くらいにしか思っていないのである。少なくとも、雪合戦ではない。
後日、すぐに小包が届いた。岩波書店の「ケストナー少年文学全集4」。高橋健二訳。
それは絵本風の、幅広の体裁で、私はその表紙に雪合戦をする寄宿舎の少年たちを認めた。この本は軽やかに、速やかに、何の煩いもなく私の手元に落ち着いたわけであるが、私はその本を裏返して、そこにちょっとした謂(いわ)れ書きを見つけた。「石狩市民図書館の本から あなたの本へ」というシールがそれであるが、つまりこの本は石狩市民図書館の除籍本であったわけで、私は不意に、こんな本が私の手元にひゅうっと飛んでやってきたことはちょっとおかしかったが、よくよく考えてみれば、北の大地からどうやら幾つかの遍歴を経てとうとうわが家にたどり着いた漂流物の運命を思うと、早く、多く、的確に射止める、というような、雪合戦の風情はやはり感じ得なかった。
しかし内心、焦りがあった。聖夜は近い。良い年をして今年も彼女がいない、というような焦りではない。それでもいいし、それもあるが、とにかく私にはその時点でもう「飛ぶ教室」の落語化に要する準備日数が甚だ限られていたのであった。
そうして、その話は流れた。流れた、というより、もう一年準備したい、という前向きにも思わせる言い訳でもって幕を閉じた。と同時に、またひゅうっと飛ぶようにやってきて去っていくのだろう、来し方の一年のことを思った。今年こそ『飛ぶ教室』の一部分だけでも高座で表現したいと思うが、どうなるか。本は届いてから、まだほとんど読んでいない。取り寄せて、机の上に置いたままである。

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