虫以下と 答えて後は シカトかな
三遊亭朝橘の「朝橘目線」 第2回
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えっ、一緒なの?
人間を称して「万物の霊長」、すなわち最も優れた生物である、と。いやいやいや、と思ってしまう今日この頃だ。上記の通り、人間はかくも弱い。
今の家に引っ越す前、まだ独身時代の頃。仕事を終えて夜中に帰宅し、ドアノブに手を掛けたらそこに大きめのゴキブリがいたことがあった。あれでショック死してもおかしくなかった。
あの生物は毒があるわけでもないし、噛んだり引っかいたり、刺したり血を吸ったりするわけでもない。エンカウントしても向こうはひたすら逃げるだけ。奴にあるのは機動力と不快感、その二つだけでここまで人間の精神を痛めつけてきたというのは凄まじいと思う。
奴の名前すら口にしたくない、目にも耳にも入れたくないという願いが【G】という呼称を誕生させたのは、ひとえに人類の叡智そのものであると思う。最初にそう呼んだの、誰なんだろう? 何はともあれ、愛する子どもたちには、そうした脅威にさらされることなく、いつも笑顔で楽しく過ごしてほしいと心から願う。
娘たちが家に帰ってきたり、私が仕事を終えて帰宅して子どもを発見すると、つい衝動的に駆け寄って抱っこしようとしてしまう。娘たちは「やーめーて!!」と叫び、逃げる。とは言っても大人の私の方が素早いから、回り込んで抱っこする。
「やめてって言ったら、やめて!」と、娘は責める。
「嫌がってるんだから、やめなよ」と、妻は詰る。
私には毒があるわけでもない。噛んだり引っかいたり、刺したり血を吸ったりもしない。機動力と不快感。それだけで、こんなに娘たちから嫌がられている。
このままいくといつか家族が私のことを、朝橘の頭文字で【C】と呼ぶ日が……いやいやいや……気をつけよう……。
(毎月8日頃、掲載予定)