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はみがきじょうずかな

立川談吉の「ずいひつかつどお」 第1回

師匠談志の歯ブラシオールスターズ

 歯はとても大事なもので、食べ物を噛み砕くだけでなく、発音や表情、体のバランスにも深く関わっている。

 何より一度失うと再生しない。サメなどは顎の後ろ側でどんどん新しい歯が作られ、生涯に何度も生え変わるというのに、人間というのは全く体たらくなものである。

 大体、そんな大事なものだとしたら、子供の頃にもっとちゃんと教えるべきだ。長い人生において国語や算数以上に大事にするべきものだし、給食後だってしっかり歯磨きの時間を設けるべきなのだ。

 ちなみに百獣の王であるライオンは虫歯にならないそうだ。人間が食べるような砂糖を多く含むものではなく、シマウマ、ヌー、アフリカスイギュウ、キリンなどを主食とするからだ。

 悔しい。今度ライオンにあった時には、お近づきの印に“とらや”の羊羹を持っていくことにする。

 思えば、師匠立川談志は、大変に歯磨きが好きな人だった。好き過ぎて趣味の域だったほどだ。

 自宅の洗面所には細いものや太いもの、毛が多いものや少ないものなど、大小様々な歯ブラシが10本以上揃っていて、我ら歯ブラシオールスターズと言わんばかりの面構えをしていた。

 旅先にも、その中から厳選して5~6本くらい持って行った。宿泊先で旅館やホテルの部屋に入り、師匠の部屋の洗面所に歯ブラシ戦隊ミガキンジャーを並べるのは、弟子の大事な仕事だった。

 歯を磨くだけでは飽きたらず、舌磨きなるものも使い、喉の奥まで突っ込んで一人えづいていたのは今でも鮮明に思い出せる。

 いやあまり鮮明に思い出したくないものだが、忘れられないのだから仕方がない。これも師匠の遺産なのだ。