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社会派講談の旗手 神田香織(中編)
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」第6回
- 講談
『お菓子放浪記』 ~少年の夢と戦争の影
神田香織が最近取り組んでいる平和関連の話としては、作家・西村滋が1976年に発表した小説『お菓子放浪記』がある。松本真樹の脚本を通したこの作品もまた、西村の実体験をもとにした作品であり、戦争の敗色濃くなりゆく時代に、天涯孤独のシゲル少年が甘いお菓子へ憧れを抱きながら、決して真っ直ぐな人生ではない、過酷な運命を生きていく姿を描いている。香織は『二人の恩人との出会い』と『旅芸人との出会い』の二作を連続で読んでいる。
―私は先生の作品では『お菓子放浪記』が好きで、『はだしのゲン』のように生々しく、直に戦争について訴えるのもいいけれど、変化球と言いますか、違った見方から戦争に迫っていくのもいいなと思っています。
香織 私も好きなんですよ。本当はもっと練り込んで、続きも作りたいし、連続で読んでいきたいと思っているのですが、今はまだ前後二作で読んでいます。『ゲン』はあれだけ生々しい作品でしょ。でも一方で、『お菓子放浪記』はお菓子に憧れた少年の気持ちとか、当時の戦争中の庶民の暮らしぶりがよく描かれているんで、この作品はずっとやっていきたいですし、寄席でもかけやすいようにしていきたいですね。
―私は劇評も書いたりするのですが、その時に「本当の人の生き方とは何か」というテーマを探求しています。「人が人として生きていくためにすべきこと」、その応えを見出すというのではなく、舞台を見ている人が考えていく。「考えることがまず大事である」と、先生の高座を前にしていると、そうしたことを感じます。
香織 その通りですね。お客さんが聴いて、「なるほど、こういう生き方があるんだ」と感じてもらえれば嬉しいですね。
―最初に『お菓子放浪記』を聴いた時に、そうしたことを強く感じました。
香織 ありがとうございます。この作品はいつもお菓子に憧れていて、あと半年待てばお菓子が来る。でもお菓子が来たら、誰かに持っていかれてしまう……。旅芸人が登場しますが、主人公の少年が出会った時に、最初は見下していたのに、実は素晴らしい人たちだと気づくんですよね。ところが女形の芸人のところに赤紙が届いて、自ら命を絶ってしまう。聴いている人もシゲル少年と同じ気持ちになってもらいたいですね。