〈書評〉 雲助おぼえ帳 (五街道雲助 著・長井好弘 聞き手)
「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第4回
- 落語
- Books
杉江 松恋
2025/08/19
55席に込めた落語の魂
五街道雲助、現在落語界では唯一の重要無形文化財保持者、いわゆる人間国宝である。
「雲助」は、タクシーなどの運転手を侮蔑する言葉としてマスメディアでは放送禁止用語扱いされる言葉だ。人間国宝だが放送禁止用語。この取り合わせが実に芸人らしくていい。
この六月に『雲助おぼえ帳』(朝日新聞出版)が刊行された。「滑稽噺から芝居噺まで厳選55席を語る」という副題通りの内容であり、全体が「落し噺」「廓噺」「人情噺」「世話噺」の四章に分けられている。この第四章に大きな意味がある、ということは後で述べる。
この連載で以前、『五代目小さん芸語録』(中央公論新社)という、弟子である柳家小里んが師匠の十八番について語った本を取り上げた。同趣向の一冊で、同書では故・石井徹也が担当した聞き手を、元読売新聞編集委員の長井好弘が務めている。
長井は、六代目神田伯山が自身の持ちネタについて語る『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)でもやはり聞き手と構成を担当しており、こういった書籍では現在右に並ぶ者のないはまり役である。長い演芸鑑賞歴が見事に活かされた内容になっている。
本書では、本文中の随所に注が挿入されている。たとえば「くしゃみ講釈」の項では映画「化粧雪」に六代目一龍齋貞山が出演して読んだのが「南部坂雪の別れ」か「赤穂義士伝二度目の清書」のどちらかわからないという話が出てくる。
ここに注で、前者は「浅野内匠頭の奥方であった瑶泉院に寺坂吉右衛門が討ち入りを知らせる形」だが、後者は「播磨国豊岡の実家に戻っていた大石の妻に、吉右衛門が知らせる」と書いて「言い立ては同じ」とまとめられる。この注があるとないとでは、読者の理解度は違うはずである。
自由を象徴する芸名の由来
雲助は1948年(昭和23年)、墨田区本所に生まれた。明治大学商学部在学中の1968年(昭和43年)に十代目金原亭馬生に入門、前座名駒七を名乗った。七番目の弟子だからである。1972年(昭和47年)、二ツ目に昇進した際、現在の五街道雲助を襲名した。
最初の著書である『雲助、悪名一代 芸人流成り下がり』(白夜書房)に襲名に関する記述がある。
もともと師匠の十代目馬生が「俺は引退したら五街道雲輔になるよ」と常々言っていたのを「なにものにもとらわれず、きょうはこちら、あしたはあちらと大空をただよう」「ジョージ秋山の『浮浪雲』のイメージ」で気に入って自分のものにしたのである。字面が「そのままだと年寄りくさいから」と言って、馬生が「雲助」に表記を改めさせた。
ゴカイドウクモスケという落語家は過去に何人かいたらしいのだが、表記もばらばらで正式な代数はよくわからなかった。二ツ目昇進の際には名入りの手ぬぐいを配る習わしがある。書画の腕前はプロ級だった馬生にお願いして描いてもらったところ、「五街道雲助」と名を入れたところで師匠は弟子の顔を見て、何を思ったか「六代目でいいやな」と呟いた。それで決まり。
描き終わってから馬生は「六代目」と「五街道雲助」のバランスがおかしいな、と首をかしげたという。
いま読まれています!
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々を綴った十日間の軌跡
三遊亭 司
2026/03/02
「テーマをもらえば考えます」 第7回
愛と青春のカレー断ち
~うん、世の中よく分からないことだらけだわ……
三遊亭 天どん
2026/02/28
「ずいひつかつどお」 第3回
ぼうけんだんきち
~可能性の獣たちよ、大海原に漕ぎ出そう!
立川 談寛
2025/08/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第10回
〈書評〉 〈声〉の国民国家 浪花節が創る日本近代 (兵藤裕己 著)
~浪曲・中興の祖、桃中軒雲右衛門の声が編んだ幻想の共同体
杉江 松恋
2026/03/01
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「コソメキネマ」 第十回
浪曲の台本
~臆病者の侍が心理作戦で剣豪に立ち向かう映画をご紹介!
港家 小そめ
2026/02/21
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第9回
〈書評〉 小麦畑できみが歌えば (関かおる 著)
~孤独な少女が声で未来を切り拓く、静かで熱い成長物語!
笑福亭 茶光
2026/02/27
「すずめのさえずり」 第八回
鹿芝居狂想曲 ~しろうとしばいはおおにぎわい~
~主役なのに不安だらけ? 鹿芝居「髪結新三」奮闘記!
古今亭 志ん雀
2026/02/23
「エッセイ的な何か」 第9回
2月9日は、服の日 →普段から着物で生活する男の葛藤
~マオカラーの夢、丸刈りの悪夢
三笑亭 夢丸
2026/02/24
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「エッセイ的な何か」 第9回
2月9日は、服の日 →普段から着物で生活する男の葛藤
~マオカラーの夢、丸刈りの悪夢
三笑亭 夢丸
2026/02/24
「マクラになるかも知れない話」 第七回
街道一の大節分
~男には、逃げてはならない時がある!
三遊亭 萬都
2026/02/26
「テーマをもらえば考えます」 第7回
愛と青春のカレー断ち
~うん、世の中よく分からないことだらけだわ……
三遊亭 天どん
2026/02/28
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々を綴った十日間の軌跡
三遊亭 司
2026/03/02
「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第9回
〈書評〉 小麦畑できみが歌えば (関かおる 著)
~孤独な少女が声で未来を切り拓く、静かで熱い成長物語!
笑福亭 茶光
2026/02/27
「すずめのさえずり」 第八回
鹿芝居狂想曲 ~しろうとしばいはおおにぎわい~
~主役なのに不安だらけ? 鹿芝居「髪結新三」奮闘記!
古今亭 志ん雀
2026/02/23
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「芸人本書く派列伝 クラシック」 第10回
〈書評〉 〈声〉の国民国家 浪花節が創る日本近代 (兵藤裕己 著)
~浪曲・中興の祖、桃中軒雲右衛門の声が編んだ幻想の共同体
杉江 松恋
2026/03/01
「コソメキネマ」 第十回
浪曲の台本
~臆病者の侍が心理作戦で剣豪に立ち向かう映画をご紹介!
港家 小そめ
2026/02/21
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
月刊「シン・道楽亭コラム」 第10回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.2
~共同席亭という名称のひらめきと、橋本さんとの生前最後の面談詳細
シン・道楽亭
2026/02/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/02/03
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第10回
宇宙一の美人も風邪には勝てない
~たっぷりの愛情を込めて演芸界という濃密な世界を描く芸人日記
東家 千春
2026/02/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
月刊「浪曲つれづれ」 第10回
2026年2月のつれづれ(沢村豊子を偲ぶ会、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、帯広浪曲学校)
~世界に一つだけの宝
杉江 松恋
2026/02/09
「お恐れながら申し上げます」 第6回
早朝寄席のこと
~精一杯やりますので、ご来場をお待ちしております
入船亭 扇太
2026/02/11
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
編集部のオススメ
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【後編】
~急がず、無理にいじらず、忠実に磨き続ける。その姿勢がまっとうな芸を支える
話楽生Web 編集部
2026/01/27
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【中編】
~伸びた鼻っ柱が折られた、小さん師匠のひと言
話楽生Web 編集部
2026/01/26
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
「浪曲案内 連続読み」 第9回
三味線と 浪曲唸って 二刀流 弾く手あまたな 伊丹秀敏
~浪曲史に愛され、刻まれた最高の曲師
東家 一太郎
2026/01/23
「くだらな観音菩薩」 第9回
伎芸天
~努力は報われるのか、裏切られるのか
林家 きく麿
2026/01/16
「講談最前線」 第14回
2026年1月の最前線(新春ご挨拶 : 宝井琴調・講談協会会長 & 神田紅・日本講談協会会長、今年の顔 : 田辺いちかインタビュー)
~講談はいつも面白く、そして新しい
瀧口 雅仁
2026/01/15
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第9回
昭和101年に寄せて ~落語は新しい!!
~落語を未来へ手渡す人々
シン・道楽亭
2026/01/10
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01