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夏の日の少年

三遊亭萬都の「マクラになるかも知れない話」 第1回

夏の日の少年

題字:三遊亭萬都

三遊亭 萬都

執筆者

三遊亭 萬都

執筆者プロフィール

もうインディ・ジョーンズにはなれない僕ら

 三遊亭萬都です。唐突ですが、今回からエッセイを連載させていただく運びとなりました。

 毎回、話楽生Web(わらうウェブ)の編集Iさんからお題をもらって、つたない文章を展開していくことになりますが、お暇つぶしくらいにはなるよう務めますので、ひとつお付き合いのほどをよろしくお願いします。

 まず連載をするに当たり、済ませておかなければならないことがありまして、それは僕が「話楽生Web(わらうウェブ)」さんのことを、かなり最近まで(わらくしょうウェブ)と読んでいたことを白状するということです。何の疑いもなくそう読んでいました。

 ちゃんと(わらうウェブ)とカッコで明記してくださっているにもかかわらず、注意力のなさから見落としておりました。この文章がこのまま掲載されて皆様に届いておりましたら、それは編集Iさんの寛大な御心で上記の罪状が許されたということです。ああ良かった、許された。

 さて、今回のテーマは、「冒険」。

 冒険というものを大人になってしている人は、一体どれくらいいるのか。インディ・ジョーンズのような生活をして「毎日、冒険の連続さ!」という人はあまりいないのではないだろうか。

 僕を含め、多くの人にとって「毎日冒険」なんていうのは、少年時代に限られるだろう。

少年を冒険へと駆り立てる夏の秘密

 僕は前座のころ、よく大師匠(おおししょう、師匠の師匠)三遊亭圓窓にくっついて各地の小学校を訪問し、「落語の授業」という落語ワークショップを行っていた。

 子どもたちは、いつも真剣に落語とのふれあいを楽しんでくれた。しかし、たまにだが楽しんでくれてはいるが、なんだかふわふわとしているというか、噺をしてもぽかんとしたり、反対に何でもないようなところで笑いが止まらなくなってしまうことがあった。

 「これはどういうことでしょうか?」

 控え室で大師匠に聞くと

 「ああ、しょうがないよ。夏休み近いんだもん」

 なるほど。確かにこういう反応になるときは、いつも7月だった。子どもたちは集中して聞いてくれてはいるが、間近に迫った夏休みへの思いが頭のどっかにあって浮ついていたのだ。

 「それは、しょうがないですね」

 そう返事をした。

 その控え室に、生徒を代表して学級委員の男の子が授業のお礼を言いに来てくれた。もじもじした小さな声のお礼の言葉と感想を書いたカードをもらった。

 男の子が恥ずかしそうにお辞儀をして控え室を出るとき、大師匠が

 「夏休みはどっかぃ行くのかい?」

 と言うと、男の子は驚くような大きな声で

 「海と山! あとプールにも行きます!」

 と言って出て行った。大師匠はにこにこしていて、僕もなんだかうれしくなった。

 ああ、そうか。夏の日の少年には、冒険が待ち構えているんだな。