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〈書評〉 『講談・伝統の話芸』(有竹修二 著)

杉江松恋の「芸人本書く派列伝 クラシック」 第4回

〈書評〉 『講談・伝統の話芸』(有竹修二 著)
杉江 松恋

執筆者

杉江 松恋

執筆者プロフィール

講談の過去と現在をつなぐ、知られざる名著

 今、講談本で復刊してもらいたい本の筆頭は何だろうか。

 少し前に中公文庫から二代目神田山陽『桂馬の高跳び坊ちゃん 講釈師一代記』が復刊された。もう一冊、石井英子『本牧亭の灯は消えず 席亭・石井英子一代記』も出た。

 前者は、出版社の跡継ぎとして生まれながら、講談に魅せられて衰退した話芸を救うべく私財を投じて活動しているうちに自分が本職になってしまい、後に日本講談協会の初代会長となった大物の自伝だ。後者は日本最後の講談定席の席亭としてこの芸能に貢献し続けた女性による回想記である。

 この二冊を読めば、戦後講談史を俯瞰するための視座は得られるはずである。手前味噌ながらそこに、桃川鶴女・聞き手杉江松恋の『鶴女の恩返し 師匠田辺一鶴へ弟子鶴女が贈る涙と笑いの講談道』(扶桑社)を加えていただけるとありがたい。前二作では触れられなかった講談界の事情について、客観的な資料を元に再構成した内容であり、参考書の役割は果たすはずだ。

 では次は何か。私は有竹修二『講談・伝統の話芸』(朝日新聞社)ではないかと思うのだ。今挙げた三冊が、昭和から令和の現在に橋渡しをしてくれる本だとすれば、同書は昭和から遡って明治の昔を展望する一冊である。

 本書が刊行されたのは昭和48年、1973年のことだが、その頃にはすでに失われてしまった気風、講談師の記憶があった。それについての語りがおもしろく、知らなかったことの連続で新鮮なのだ。

 全体は四部に分かれている。まず「講釈から講談へ」とあり、巻頭「講談界の略史」の章がこの芸能を概観する上では非常に参考になる。その中で通史として二冊の本が挙げられている。

 一冊目が1924年(大正13年)刊の関根黙庵『講談落語今昔譚』(1960年に『講談落語考』と改題し、雄山閣から復刊)、次が1943年(昭和18年)刊の『講談五百年』(鶴書房)である。この二冊のみが講談の通史である、と有竹は述べている。いずれこの連載でも、どこかで取り上げることにしたい。

『講談・伝統の話芸』は書き下ろしではなく、有竹が各媒体に書いた原稿を集めたものではないかと思う。『講談研究』などで私は読んだ記憶がある原稿が含まれている。なので通史的な語りは最初の「講釈から講談へ」のみで、以降はこの芸能の魅力をさまざまな角度から分析した「話芸の世界」、八丁荒らしの異名をとった三代目神田伯山について書くとき、誰もが参照する文章が含まれた「名人列伝」、トリヴィアルともいえる知識をさまざまに紹介する「講釈場教室」、自身の鑑賞記録を掲載した「釈場通い―古日記より―」と三部が続く。