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〈書評〉 『生殖記』(朝井リョウ 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第3回

〈書評〉 『生殖記』(朝井リョウ 著)

自分自身と社会との接点を問い直す『生殖記』(画:サラマンダーゆみみ)

笑福亭 茶光

執筆者

笑福亭 茶光

執筆者プロフィール

社会の仮面と心の真実

 社会の中で擬態(ぎたい)し、日常を消費することだけを考えて生きる主人公、尚成(しょうせい)。『生殖記』は、尚成の日常を○○が語り部となり、進めていく小説だ。

 私の連載コラムは、読書感想文という形をとっているが、一切のネタバレがないことを心掛けている。なので、この斬新な語り部の正体ももちろん明かさない。ぜひ、実際に作品を手に取って読んでもらいたい。

 社会の中で、何かしらの生きづらさや秘密を抱え生きている人は少なくないだろう。そして、それぞれが自分の中でその生きづらさと向き合ったり、見ないふりをしたりして日々を過ごしている。

 この小説は物語としては地味で、何か特別大きな事件が起きるわけではない。「尚成の日常」と「尚成の心」が語り部の目線で綴られている。

 ……。

 ネタバレがないと言いながらも、「大きな事件が起きない」と書いたことがもうネタバレではないのか?と、しばらく自問自答してしまった。しかし、この小説の凄いところは、大きな事件が起きないのに面白いところなので、そこはあえて伝えておきたい。

 尚成は、ある理由から社会生活の中で本当の自分を見せることなく擬態をし、当たり障りがないように日々を過ごしている。尚成の抱えている「生きづらさ」からくる社会生活での擬態とは違う話だが、きっと人間、誰しも沢山の擬態をしながら生きているのではないだろうか。