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紀州、片棒、つる

林家はな平の「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第5回

十五席目 『つる』 ★★★

【あらすじ】

 いつものように隠居の元を訪れる八五郎。話題が、床屋にあった掛け軸の鶴の絵に及ぶ。「仲間が『鶴は日本の名鳥だ』と言ったが、どうしてか」と尋ねると、「鶴は姿が美しくて情も深いので、日本の名鳥だ」と言う。

 じゃあ、「鶴はどうして『つる』というのか?」と聞くと、困った隠居がこう答える。

 鶴は元は首長鳥(くびながどり)と言って、昔あるお爺さんが浜辺に立って遥か沖の方を眺めていると、首長鳥のオスが「つーーー」っと飛んで来て、その後、メスが「るーーー」っと飛んで来たから、「つる」と呼ばれることになったという。

 それを聞いた八五郎が早速、友だちの家に試しに行く。

 「首長鳥のオスがつるーーーっと飛んで来て、メスが……」と上手くいかない。もう一度、隠居のところに聞きに行く八五郎、再度、友だちの家に試しに行くが……。

【オチ】

八五郎「今度は間違えねえぞ。オスがつーーーっと飛んできて、浜辺の松の枝にるっと止まったんだ。で、後からメスが……」
友だち「だから、後からメスがなんて飛んで来たんだ?」
八五郎「後からメスが……黙って飛んできた」

【解説】

 上方発祥の噺で、学校公演など、子供の前でやることが多い。短い噺でとてもくだらない噺だが、オチは秀逸である。八五郎史上、渾身の一言だと思う。

 「……黙って飛んで来た」

 こんなに腑に落ちるセリフはない。とても馬鹿馬鹿しい内容なので、その馬鹿馬鹿しさをいかにシラけないように喋るかが肝となる。

 「つー」っと来て「るー」っと来たから「つる」なんて、最初から嘘だとわかっているわけだが、その疑問を通り越して、主人公がその気になって試そうとするところがおかしい。

 「この噺、馬鹿馬鹿しくて、くだらないですよね?」というスタンスでお客様に歩み寄ってしまうと途端にウケなくなるので、とにかく主人公の気持ちで素直に演じることにしている。いつか、このメスの首長鳥のように、ご託を並べず黙って演じたい。

(毎月6日頃、掲載予定)