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第二話 「集まれ! 蘊蓄おじさん」

「令和らくご改造計画」

#4

 ――さあ、ここにもう一人やってきた。

 殺虫亭みっ平(さっちゅうてい・みっぺい)くん。坊主頭にまっすぐな目をした好青年だ。しかし、口から出た案は、さらに斜め上だった。

みっ平「そんなまどろっこしいことは、要りません。ドアを外からロックしましたら、その密閉空間でバルサンを焚きましょう」
僕「えっいや――」

みっ平「はっ、冗談ですよ」

 そう言って、目を真っ黒にして笑う。冗談の目には見えない。

みっ平「僕らも『おち太』兄さんの一件で懲りました。前座は修業中の時点で、ある意味、刑期執行中ですから。これ以上、ほんとの刑期がついたら、割に合いませんよ」

 屈託なく笑う彼に、こちらは冷や汗が止まらない。だいたい「懲りた」とはなんだ。どういう意味だ。一体全体、最近の前座さんはどうなってしまったのか。

かえる「流すのは、“これが志ん生だ”かなぁ」
みっ平「ひとまず火災報知器にカバーをして……」

 ――とはいえ、二人の極端な案が照らしているのは、同じ一点だ。

 『客席の安心をどう守るか』

 注意喚起の掲示、スタッフの巡回、開演前アナウンス、終演後の導線づくり、クレーム窓口の明確化……現実的な方法はいくらでもある。だが、それを厳格に規制すれば、客席は窮屈になる。ここでこそ“笑いの言葉”に翻訳し、観客と共に合意形成すること。それが演芸のあるべき姿なのかもしれない。

 寄席と芸人が一丸となって取り組まなければならないだろう。落語の、未来のために。

 ――それにしても、この二人はいったい何を考えているのだろうか。どこまでが冗談で、どこからが本気なのかわからない。前回の『おち太』くんもそうだった。

 やはり最近、楽屋の様子がおかしい。

 ―続く―

(毎月12日頃、掲載予定)