言霊のブーメラン
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第3回
- 落語

前座時代、打ち上げで大盛り上がりしたゲーム(画:大久保ナオ登)
ついに僕自身も
第1回、第2回と締め切りについて書いていた。
毎回締め切りについて書くと、書くことがないように思われるのが嫌なのだけど
書かざるを得ない理由がまた一つできてしまった。
なんとあれだけ辛辣にこのエッセイ上で締め切りについて糾弾したにもかかわらず
なんと僕自身も締め切りを守ることができなかったのだ……。
実を言うと、7月1日から落語芸術協会に客員として所属させていただいたおかげで、寄席に顔づけしていただけるようになり
ありがたいことに、8月は10日間、9月は20日間、10月は15日間も寄席に出していただけることになったのだ。
元々、下半期は繁忙期で結構スケジュールが埋まってた上に、この寄席の稼働に加え、その他諸々の事務作業、準備、締め切り等
目が回るほどの忙しさ。
というか、本当に忙しい時って、本当にちょっと目が回るんだよ!!
目が回ってるのに頑張ってるんだよ!!
だから許してね。
てへぺろ(๑˃̵ᴗ˂̵)
まあ言い訳でしかないのだけど
自分の言ったことがブーメランのように帰ってきた。
誠に申し訳ないので、左のまぶたをちぎってキクラゲの代わりにした豚骨ラーメンを編集部のIさんに進呈して許してもらおう。。
ただし、ちぎったからには、わしのキクラゲは必ず食わせるけ、覚悟しんさいや!!
しかし、この「言霊ブーメラン現象」は本当によくあるんだよなぁ。
何でかわからないけど、出番前に後輩にアドバイスをした時に限って
だいたいウケずに降りてきて、アドバイスをした後輩と変な空気になるのよね。
「ごめん、なんかあんまりウケへんかったから、さっきのアドバイス聞かんかったことにして」
「いや、まあ、ウケてましたよ」
「いや、まあ、なんかごめんな……」
「いや、まあ、お客さん、重かったですかね」
「いや、まあ、なんかネタ選択ミスったかな?」
「そんなことなかったっすけどね。まあ、みんな顔は笑ってましたよ」
顔だけ笑ってるのはただニヤついてるだけで、小馬鹿にされとるやないか……。
気を使う後輩と恥ずかしがる先輩の「まあ」「まあ」の応酬ほど、悲しいものはない。
延々と続く芸談と武勇伝
一番すごかったブーメランは、とある大御所が
「俺が舞台の真髄いうのを見せたるわ!!」
と言って出ていったにもかかわらず、舞台で信じられないくらい笑いが起こらなかったことだ。
それ以来しばらく、若手の間では信じられないくらい滑ることを
「真髄」
と呼んでいた。
単発でも痛いのだけど、連続ブーメランになるとダメージも相当深くなる。
散々、出番前に
「落語家はなあ、出の時よりも帰る時の拍手の方が大きくないといかんねん!! そもそも芸なんてもんはな……」
と楽屋で芸談を語り
「落語家の着物の裾はなあ、長めがええんや!! 最近の若手は衣装に対する意識が低い!! やっぱり着物もカッコよく着こなさなあかんで!!」
と出番前に力説していた先輩は
落語が終わって立ち上がる時に自分の着物の裾を踏んづけて盛大にすっ転んでしまった!!
そして悲しいことに熱演した落語よりも、裾を踏んづけてこけた時が一番ウケていた。
ある意味、出の時より拍手が大きかった気がする。
ただ、その場にいた後輩全員が「着物の裾は絶対、長くせんとこ」と心に決めていた。
もしかしたら東京の落語家より、上方の落語家の方がブーメラン被弾率は高いかもね。
というのも、上方の落語家は、後輩にアドバイスをしたがるところがあるからだ。
基本的に上方の落語家は、欲しがりのかまってちゃん。
東京の落語家は、弟子でもない限り、後輩にあんまりアドバイスをしない。
他の落語家の芸に干渉しないのだ。
やっぱり東京の落語家は真打という確固たる基準があるので、後輩であろうと真打であれば尊重するということなのかもしれないな。
上方は真打の基準がない。
そして何より、実力があるのに報われていない落語家がひじょ〜〜〜に多い。
いやそんなん言うてる僕も報われてないけど……。
あ、そんなん言うたら、僕が自分のことを過大評価してると思われたら嫌だから、訂正します。
僕は、実力よりちょっとだけ低いくらいの報われ方をしています。
なんとかブーメランは回避できたところで、話を戻すけど
報われない無念さを消化させるためなのか
もっと褒めてほしい願望と、かまってちゃんが発動して
打ち上げの席で、後輩に芸談と武勇伝を延々と語り続けるという
「打ち上げハラスメント」
これが日夜、行われている。