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転失気、まんじゅう怖い、みそ豆
「オチ研究会 ~なぜこのサゲはウケないのか?」 第6回
- 落語

みそ豆 (画:おかめ家ゆうこ)
落語には、オチ(落ち)がある。噺家は、サゲ(下げ)と言うことが多い。そうしたオチには「秀逸なもの」と「くだらないもの」、そして「説明しないとわからないもの」が存在する。そんなオチを筆者なりに★~★★★で分類し、「あらすじ」「オチ」「解説」の順に説明する(★の分類基準は、連載の第1回をご参照いただきたい)。
今回は、転失気(てんしき)、まんじゅう怖い、みそ豆を解説する(○席目は、第1回からの通算の席数)。
十六席目 『転失気』 ★
◆【あらすじ】
あるお寺の和尚、朝からお腹の具合が悪く、医者に往診に来てもらう。
いろいろ診てもらい、医者が「転失気はございますか?」と訊いてくるが、意味がわからず、その場は繕って帰ってもらう。転失気が何か気になって調べるがわからず、小僧の珍念(ちんねん)を呼んで、転失気を花屋に借りてこいと言う。
同じく転失気を知らない珍念は、花屋に向かう。花屋は、「床の間の置物にしていたが親戚が持っていった、味噌汁の具にして食べた」と言う。
ますます転失気がなんだかわからない。仕方がないので、医者に直に聞いて来いと言われ、珍念が尋ねてみると、なんと転失気は医学用語で「おなら」のことだった。
珍念は、帰り道に考える。和尚は転失気を知らないから自分に聞きに行かせたんだ、そのまま教えるのも癪だから、別のものにしてからかおう。そうだ、和尚は酒が好きだから転失気は「盃(さかずき)」のことにしよう。
和尚はこれを鵜呑みにして、「そうだ! “てんしき”とは、『呑酒器』と書くから盃のことだ」とすっかり騙される。
数日後、医者がまた往診に来るが……
◆【オチ】
医者に自慢のてんしき(盃)を見せたい和尚と、てんしき(おなら)を見せられても困ると渋る医者。和尚は、珍念に三つ組の盃を持って来させて、医者に披露する。
医者「見事なお盃ですなあ」
和尚「至って粗末な、呑酒器(てんしき)です」
医者「はて、寺方ではお盃を“てんしき”と申されますか?」
和尚「え? お医者様のほうでは?」
医者「我々、医学のほうではおならのことを“てんしき”と申しますが」
和尚「お、おなら!? 珍念め、やりおったな。おい、珍念! そんなとこでゲラゲラ笑いおって、こんな嘘をついてなんとも思わないのか?」
珍念「ええ、屁とも思いません」
◆【解説】
近年、と言ってもここ何十年で一番主流となっているオチである。というのも、この噺のオチは沢山あるので、紹介しているオチを皆が使っているわけではない。
ただ、筆者がこの噺に接する限り、近年ではこのオチが使われていることが多い気がする。「気がする」というなんとも気の抜けた印象なのは、この噺のオチはあまり重要ではないと思うからでもある。そういう意味でも星1つになってしまう。
他のパターンのオチもいくつかあるが、基本的にはダジャレのようなものが多い。
こういう下ネタの噺は子供にウケるので、子供の前でやる機会が多い。筆者がこの噺をやるきっかけも、学校公演が続いて子供の前でできる噺を模索したからである。子供はおならが大好きなので、後半のおならが出てくるとゲラゲラ笑ってくれる。とにかく「おなら」を連呼しちゃう。
一方で、こういう下ネタは「逃げ噺」とも言われ、若手や前座がやることを良しとしない師匠もいた。下ネタでウケを取る噺は、番組の前半でやるより、後半になって大御所の師匠がサラッとやるもんなんだ、という考え方なのかもしれない。
下ネタでウケることに逃げるな、で「逃げ噺」なのだ。