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鑑真和上

「くだらな観音菩薩」 第6回

鑑真和上

鑑真和上像(画:林家きく麿)

林家 きく麿

執筆者

林家 きく麿

執筆者プロフィール

恋人に会えない男と、師匠を追いかけた男

 初めましてな方も、「おいおい、もう何回も会ってるよ!」な方もこんにちわ、林家きく麿です。

 人それぞれに人生があるように、噺家それぞれにも必ず存在するものがあります。それは一体なんでしょうか?

 好きな噺? 嫌いな師匠? 毎日行く喫茶店?――あら、そんなんじゃないでしょ。出囃子でしょ。みんな、それぞれ違うんだから。

 そう! 出囃子……は一人に一つと思われがちですが、所属する団体が違ったり、関東と関西で同じ出囃子を使っている方がいたりするので、実はそうとも限りません。

 ちなみに私の出囃子は『おお、スザンナ』。アラバマからルイジアナまで、恋人のスザンナに会うためにバンジョーを持ち、苦難を乗り越えて旅をする歌です。結局、会えてませんけどね。熊本出身のおばかタレント代表格の方に……。

 こらこら、それはスザンヌでしょ。母はキャサリン、妹はマーガリンでしょ!ではなくて、日本の多くの中学生男子が音楽の授業で「♪わたしゃアラバマからルイジアナへ~パンティーを持って出かけたところです~♪」と歌って先生から怒られ、女子から「死ねばいいのに」と昭和初期から言われ続けている、伝統ある歌です。

 さあ、皆さんも替えのパンツを持って、熊本へ旅に出かけましょう!――じゃないっつーの!

 噺家全員が持っているもの。それは、それぞれの弟子入りの経験です。噺家には、それぞれに人生を賭けた弟子入りの物語があるんです。

 「この人の元へ行こう」「弟子に取ってもらおう」と、一大決心をした瞬間が必ずあるんです。なぜなら、弟子に取ってもらえないと、噺家という何者かにはなれないからです。

 何日も何日も師匠を追いかけ、断られても断られても諦めずに許しを乞い、噺家への道を勝ち取った人もいれば、師匠から「ねぇ君、噺家にならない? いい仕事だよ、結構稼げるんだよ~」と、まるで騙されて蟹工船に乗せられる人の如く、なし崩しで噺家になった人もいます。

 ふらっと寄席に来て「あっ、この人にしようかな」とお願いしたら、すんなり弟子にしてもらえた人。弟子になりたいならと自衛隊に一年行かされた人。なぜか蕎麦屋に修行に行かされた林家やま彦さん――弟子入りの形は千差万別です。