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〈書評〉 パズルと天気 (伊坂幸太郎 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第5回

禁断の扉

 落語家にも与えられたテーマで新作落語を創る「三題噺(さんだいばなし)」というものがある。お客さんから「犬」や「車」など、何かしらのお題を三つもらい、その三つを使って噺を創作する。ルールとしてもらったお題は落語の中で言葉としてちゃんと使わなければいけない。

 私も『今日日新新(きょうびしんしん)』という三題噺をネタおろしする会にレギュラーとして参加している。前回が柳亭信楽兄さんとの二人会。お互い同じ三題を使って噺を創るので、被らないよう考えるのもこの会の難しいところだ。その時のお題が「トランプ」「マジック」「立ち往生」。私は何も思いつかなかった。

 信楽兄は、新作落語家として評価の高い実力派。きっと今回も完成度の高いネタに仕上げてくるに違いない。気合いを入れてもう一度お題をに向き合った。

 何も思いつかなかった――。

 私は禁断の扉に手をかけることにした。謎かけの名手「ねづっち」さんを主人公にした噺を創作したのだ。演題『整え過ぎた男』。主役がねづっちさん。謎かけが凄いというリスペクトを込め、ねづっち先生ご夫妻の登場する人情噺に仕上げた。

 なぜこれが禁断の扉なのか? ねづっちさんといえば「謎かけ」。何も思いつかなかった三つのお題を、噺の中で全て「謎かけのお題」としてやっつけたのだ。まさに最後の手段。三題噺の意味なし。

 しかし、この手が使えるのは一回限り。二度はない。次回の『今日日新新』は11月25日、高田馬場「ばばん場」。お題は「ひとすじの光」「意外な親戚」「冬眠」。与えられたテーマから生み出す噺は、いつもと作風が違って、これはこれで面白い。

 一夜限りの落語アンソロジー、ぜひお越しください。

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  • 書名 : パズルと天気
  • 著者 : 伊坂幸太郎
  • 出版社 : PHP研究所
  • 書店発売日 : 2025年6月
  • ISBN : 9784569859286
  • 判型・ページ数 : 四六判・240ページ
  • 定価 : 1,760円(本体1,600円+税10%)

(毎月29日頃、掲載予定)