残された街と残された人と
「二藍の文箱」 第6回
- 落語
三遊亭 司
2025/11/02
人形町、世界湯の角を曲がれば、お師匠さんがいた(画:ひびのさなこ)
テープレコーダーの向こうのやさしさ
人形町の師匠の声を懐かしく聴く。
師匠といっても、落語家ではない。人形町の師匠はわたしが最後についた江戸小唄の師匠で、もう、かれこれ15年ほど前のはなしになる。
10月の日本橋での月例会、日本橋つかさの会に『庖丁』を出した。この噺、佳境で小唄『八重一重』を歌いながら、友人に頼まれて、その友人のかみさんを口説くのだが、この小唄がなかなか難しい。はじめてこの噺を手がけた時に、お師匠さんに稽古を頼み、それを吹き込んだテープがまだ手元に残されている。
ちなみにわたしたちの口にする「お師匠さん」は、「おしょさん」と「おしさん」との音の間を取る。
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八重一重
山もおぼろに薄化粧
娘盛りはよい桜花
嵐に散らで主さんに
逢うてなまなかあと悔やむ
恥ずかしいではないかいな
お師匠さんは、東京の五花街のひとつ、芳町(よしちょう)の元地方(じかた)──お座敷で主に三味線を弾く芸妓──で、わたしが稽古に通っていた当時、齢八十の半ばであったはず。お師匠さんは、世界一周の途中で日本に立ち寄ったドイツの飛行船、ツェッペリン号をその目で見たと言う。1929年(昭和4年)のはなしだ。
それでも、元がお座敷に出ていたということもあるのか「二十代が4人いると思え」というネタを地でいく、実にチャーミングなお師匠さんだった。
「あなた歌奴さんのご一門なの?」というはなしから、人形町の玄冶店(げんやだな)に、末廣(すえひろ)という寄席があった時分のはなしになった。「路地から楽屋に入っていくんだけど、生意気な顔して歩いてたわよ」なんていうはなしは、それを見たひとにしか言えない。
人形町末廣は、いまもある老舗の毛抜き屋『うぶけや』の並びにあり、わずかに石碑に『寄席 人形町末広 跡』としてある。変わりゆく街にも、わずかにそれを惜しむひともいたということであろう。
そんな玄冶店に、一軒残った料亭濱田屋で、一門の先輩三遊亭歌橘師匠が真打披露のお礼にと、大師匠圓歌を招待し、番頭を勤めたわたしも御相伴にあずかった。その折、お座敷の姐さん方に、人形町のお師匠さんに小唄を習っているというはなしになった。「あら!? 久松姐さんお元気?」。師匠は久松という名で地方を勤めてらした。
落語に出くるような世界が、10数年前にはまだあった。残された街もそうだが、残された街のひとたちがまだそこにいた。
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