NEW

うなぎとらくごの味

シリーズ「思い出の味」 第17回

大人になって

 ある時をきっかけに、スパイスカレーに手を出す。

 スパイスカレーに手を出す男は面倒くさいという説があるが、これを機に母からバターチキンカレーの作り方を教わる。ちゃんと料理を教わったのはコレが初めてで、レシピもしっかりメモした。このカレーを呑み仲間でもある立川幸路姉さんと春風亭昇ちくの二人に振る舞うと、多めに炊いといたご飯がなくなるほど好評だった。

 教わって再現をする点では、料理と落語はとても似通っている。同じ料理でも、慣れてきたら材料を減らしたり、足したり、時短をしたりするなど、今ある材料で工夫をする。相手の味の好みに合わせて作る。その感覚が高座に生きているのかもしれない。

 しかし、この二人は酒飲みなので、いつだったか出汁の効いた鍋を作った時には、何も言わずにポン酢をかけた。あれは悲しかった。その時は、もう一人東北育ちの後輩がいて「繊細な味ですね」と一言。気を利かせたのだろうが、かくいう彼も塩を振っている。

 ポン酢を前にして、私は無力だった。

 幸せそうに酒を飲む幸路姉さんは、普段から私たちに「得意料理はラタトゥイユ」と豪語しているが、いまだに作ってくれる気配がない。はやく私たちの『思い出の味』候補に入れてもらいたい。

好きこそものの

 料理が仕事につながったことがある。

 私が「カレーが好き」という話をしていたら、不思議な縁があったもので、「スパイス欧風カレー PAIKAJI(パイカジ)」さんの『神田カレーグランプリ』PR担当の一人に選ばれる。五分間のPRタイムでお店の魅力を語り、お店の前で呼び込み。声がでかくて運営から「どうしたら落語家を呼べるの」と噂になったそう。

 微力の応援と確かな味で、なんと「神田カレーマイスター賞」というカレー通たちが選ぶ特別賞を受賞した。

『神田カレーグランプリ』でお店の前で呼び込み

 沖縄の石垣島から市ヶ谷に出店。元フレンチシェフが四日間、手間と時間をかけて作る洋風だし(フォン)を使い、パインベースの甘さと、ピパーツと呼ばれる石垣島の島胡椒のヒリリとした後味が南国の華やかさを演出している。

 一番新しい思い出の味である。――

受賞後、友人とオリオンビールで煮込んだラフテーカレーをいただく