うなぎとらくごの味
シリーズ「思い出の味」 第17回
- 落語
三遊亭 玄馬
2025/12/13
うなぎとらくご
前職は、鰻裂きの職人をやっていた。
串打ち三年、裂き八年、焼き一生。さすがに一生はやってられない。そう思ってこの世界に来たが、世の中そう甘くはなく、こっちも同じ。あくまで目安だが、前座四年、二ツ目十年、真打一生。こっちも一生なのである。
これを冗談でこぼしていたら、とある真打の師匠に見つかる。
「お前も真打になって弟子を取ってみろ。世話焼き一生だぞ」
さすが上手いことを言う。家に帰ってよくよく考えてみると、その師匠に弟子はいない。いい加減な業界である。
落語家と鰻職人は、どこか似ている。
串打ちにもコツがあり、仕上がりに直結する。手に豆ができ始めてからようやく認められる。背開きも鰻に抵抗されないように、スッと捌く。普段から鰻包丁を研いでいないと、何十匹、何百匹と捌き続けられない。角度を間違えると、刃が鰻の神経に当たり鰻が暴れてしまう。
親方は包丁の研ぎ方が上手い。時折、親方に包丁を見てもらう。刃のつき方、角度を確認してもらい、その角度ならこの体勢でと指導をもらう。研ぎ方の角度を分度器で測るわけにもいかない。その人の身体に染み込ませるしかない。
焼きは、一生。炭の質や並べ方、うなぎの油分、タレの具合などで焼き方が変わる。時折、よく焼いてほしいとか、蒸さないで欲しいなんて注文も来る。炭の並べ方も完全に同じ物はない。
厳しい世界だったが、なかなかに思い出深い。仕入れ先や時期、産地などに変化がある時は、一匹の鰻を焼き上げて、職人たちで一口ずつ食べる。焼き加減や蒸し加減、食感、自分たちの作っているものがどんな具合か確認するのである。これを食べる度に、自分はこんな素敵なものをお客さんに提供しているのだと奮い立っていた。
何で落語家に転身したのかは、またの機会に。
お世話になった「日本橋 伊勢定 本店」は、二ツ目昇進を機に連絡するも閉店してしまっていた。というのも区画整備の関係で、一時的に移転をするそう。しかも移転先での開店に二年くらいかかるらしい。
四年の前座修業は、まるで浦島太郎だ。それだというのに、お土産に玉手箱ならぬ重箱がないのである。今はあの鰻が味わえない。でも、「日本橋 伊勢定 本店」がまた開店した暁には、懐かしの味を求めて足を運びたい。
落語も観たい時に観ておかないと、観れなくなってしまうかもしれない。立場やキャリアアップによって落語の演じ方も変わってくる。落語は人間の成長や変化を味わうことができる。このエッセイを読んで最近、落語を聞いていないなと思ったら、ぜひ寄席や落語会に足を運んでもらいたい。
そして玄馬への差し入れには、ぜひ名糖の『アルファベットチョコレート』をお願いしたい。

(了)
前回(第16回)はこちら。神田紅純『師匠と香港楼と命名秘話』
いま読まれています!
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第29回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編②)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/14
「噺家渡世の余生な噺」 第11回
手紙 ~拝啓、四十八の君へ~
~来てくださった人の顔を忘れるな。 自分のために頭を下げてくださった人の姿を忘れるな
柳家 小志ん
2026/03/14
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第30回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/15
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第27回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第28回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編①)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/13
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第21回
日常を鮮やかに描く言葉の力 神田茜(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2025/12/29
「噺家渡世の余生な噺」 第8回
旅こそ、己の浅さを知る手段。だから若いうちに出る
~「まだ自分は生きている」と感じるために
柳家 小志ん
2025/12/14
「くだらな観音菩薩」 第10回
帝釈天
~うまくいかない日もあるけれど、楽しいことを探す力があれば大丈夫!
林家 きく麿
2026/02/16
月刊「シン・道楽亭コラム」 第11回
シン・道楽亭Webサイトリニューアル! ほぼほぼAIで作ってみた話
~どんな思いで運営しているのか、どんな場所として受け入れられたいのかをお伝えしたい
シン・道楽亭
2026/03/10
月刊「浪曲つれづれ」 第11回
2026年3月のつれづれ(玉川太福の受賞、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、『深夜食堂』&『陰陽師』の浪曲化)
~スターの活躍と新しい挑戦が交差する、いまの浪曲界をご紹介
杉江 松恋
2026/03/09
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第27回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/12
月刊「シン・道楽亭コラム」 第11回
シン・道楽亭Webサイトリニューアル! ほぼほぼAIで作ってみた話
~どんな思いで運営しているのか、どんな場所として受け入れられたいのかをお伝えしたい
シン・道楽亭
2026/03/10
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第28回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編①)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/13
「噺家渡世の余生な噺」 第11回
手紙 ~拝啓、四十八の君へ~
~来てくださった人の顔を忘れるな。 自分のために頭を下げてくださった人の姿を忘れるな
柳家 小志ん
2026/03/14
「お恐れながら申し上げます」 第7回
花粉の話
~鼻が教えてくれる季節の便り。春を楽しみましょう!
入船亭 扇太
2026/03/11
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第29回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(中編②)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/14
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第30回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(後編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/15
「朝橘目線」 第11回
からかさに 隠れて見たる 娘かな
~いつまでこうして一緒に歩けるのか
三遊亭 朝橘
2026/03/08
「二藍の文箱」 第10回
かたばみ日記 ~初主任の十日間
~高座と人生が交差する、濃密で温かい日々の舞台裏
三遊亭 司
2026/03/02
月刊「浪曲つれづれ」 第11回
2026年3月のつれづれ(玉川太福の受賞、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、『深夜食堂』&『陰陽師』の浪曲化)
~スターの活躍と新しい挑戦が交差する、いまの浪曲界をご紹介
杉江 松恋
2026/03/09
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第11回
病んでる間に千春の春到来
~体調不良で“声”を失っても、“笑い”は失わない宇宙一の美人浪曲師の事件簿!
東家 千春
2026/03/03
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
「令和らくご改造計画」
第八話 「酔っ払いにSNSを」
~芸人のSNSは、なぜ自由すぎるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/03/12
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第27回
古今東西を自在に読む講釈師 松林伯知(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/03/12
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
月刊「シン・道楽亭コラム」 第11回
シン・道楽亭Webサイトリニューアル! ほぼほぼAIで作ってみた話
~どんな思いで運営しているのか、どんな場所として受け入れられたいのかをお伝えしたい
シン・道楽亭
2026/03/10
「テーマをもらえば考えます」 第7回
愛と青春のカレー断ち
~うん、世の中よく分からないことだらけだわ……
三遊亭 天どん
2026/02/28
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第5回
落語家の夢
~俺の目は、まだ濁っていない!!!
桂 三四郎
2025/11/27
「令和らくご改造計画」
第六話 「若手人気落語家殺人事件 【事件編】」
~古典派と新作派の溝!?
三遊亭 ごはんつぶ
2026/01/12
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第6回
運と皆様のおかげです
~人間は弱い生き物です
桂 三四郎
2026/01/01
「令和らくご改造計画」
第四話 「初心者よ永遠なれ」
~AIが落語を演じる時、それでも人は笑えるのか?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/11/12
シリーズ「思い出の味」 第19回
雪のココア
~内弟子時代に憧れた甘い味
柳家 わさび
2026/01/13
「令和らくご改造計画」
第五話 「ヨセジャック事件」
~落語家にとってのマクラとは何か?
三遊亭 ごはんつぶ
2025/12/12
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第7回
世間せまないか?
~落語家を多数輩出する片田舎、神戸の垂水
桂 三四郎
2026/02/01
シリーズ「思い出の味」 第15回
水茄子とジンジャーエール
~夏の青臭さ、生姜風味の泡沫が映す情景
林家 彦三
2025/11/25
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25
編集部のオススメ
「けっきょく選んだほうが正解になんねん」 第8回
微笑みながら中指を
~笑えて震える、ご近所交流録! マトリックスばあさん、降臨!!
桂 三四郎
2026/02/25
「令和らくご改造計画」
第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」
~寛容な落語の世界、非寛容な現実の世界
三遊亭 ごはんつぶ
2026/02/13
「艶やかな不安の光沢」 第1回
謂れなきものたちの飛躍
~年始からとちってしまった芸人の胸のうち
林家 彦三
2026/02/12
「お恐れながら申し上げます」 第6回
早朝寄席のこと
~精一杯やりますので、ご来場をお待ちしております
入船亭 扇太
2026/02/11
月刊「シン・道楽亭コラム」 第10回
シン・道楽亭、誕生前夜から今へと続くキャリー・ザット・ウェイト Part.2
~共同席亭という名称のひらめきと、橋本さんとの生前最後の面談詳細
シン・道楽亭
2026/02/10
月刊「浪曲つれづれ」 第10回
2026年2月のつれづれ(沢村豊子を偲ぶ会、玉川奈々福の徹底天保水滸伝、帯広浪曲学校)
~世界に一つだけの宝
杉江 松恋
2026/02/09
「釈台を離れて語る講釈師 ~女性講釈師編」 第24回
講談界を駆ける一鶴イズムの継承者 田辺銀冶(前編)
~魅力と素顔に迫るインタビュー
瀧口 雅仁
2026/02/03
「宇宙まで届け! 圧倒的お転婆日記」 第10回
宇宙一の美人も風邪には勝てない
~たっぷりの愛情を込めて演芸界という濃密な世界を描く芸人日記
東家 千春
2026/02/03
「二藍の文箱」 第9回
寄席、そちらとこちら
~寄席の客席と楽屋は、やさしさにあふれている
三遊亭 司
2026/02/02
掲載記事300本記念
〈掲載記事300本記念〉 柳家さん喬師匠 スペシャルインタビュー【前編】
~小さん師匠の「おめでとう」から始まる新しい年
話楽生Web 編集部
2026/01/25