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第七話 「若手人気落語家殺人事件 【解決編】」

「令和らくご改造計画」

#4

 殺人の容疑で疑われたのは、古典派の、とある真打だった。

 事件の前夜、しん作に激昂し、掴みかかる様子を目撃されていた人物である。世間は分かりやすい構図を好む。

 新旧の対立。思想の衝突。いかにも、それらしい話だ。

 だが、調べが進むと、その線はすぐに崩れた。疑われていた師匠は、しん作の死亡推定時刻、東京にいた。前座に稽古をつける予定があり、上野の協会施設内で複数の目撃証言もある。

 事件は、東京から新幹線で3時間以上はかかる地方のホールで起きており、物理的に、犯行は不可能だった。

 しかし、興味深い別の事実が浮かび上がる。

 その日、その師匠が稽古をつけるはずだった相手の前座が、直前になって突然キャンセルの連絡をしていたというのだ。真打に稽古を頼んでおきながら、理由も告げずにドタキャンする。前代未聞と言っていい。

 そして、その前座の名が判明する。

 通亭(つうてい)まにあ。

 これまで、何度も騒動を起こしてきた前座さんの一人だ。

 警察が事情聴取を行った際、彼女は抵抗することもせず、すべてを語った。事件当日、彼女は真打の稽古をキャンセルし、なぜか東京から遠く離れた、しん作と同じ楽屋にいたのだ。

 彼女が語った事件の全貌は、こうだ。

 しん作は、古典も新作も演じる噺家だった。まにあにとっては、同じ協会に所属し、同じ立場で悩みながらも前を走る先輩だった。

 そして二人は、先輩後輩にしては妙に距離が近かった。楽屋で二人きりで喋っていることも多く、帰りの時間が重なると、特に約束もせず、同じ方向へ歩いていくこともあったという。

 周囲からは恋仲ではないかと囁かれていた。

 だが、その真実を知る者はいない。同じ境遇にいる者同士の共感。芸人としての尊敬と憧れ。そして、そこに混じる、自分でも正体を掴みきれない感情。

 そして事件当日、二人は楽屋で言い争っていた。

 まにあは言った。

 「……一度、休もう。兄(あに)さん」

 それは提案というより、懇願に近かったという。

 しん作は首を振った。

 「休んだら、戻れなくなる」

 即答だった。迷いを見せない声だった。

 その一言が、まにあの中で、何かを決定的にしてしまったのだろう。

 躊躇の末、まにあは隠し持っていたスタンガンを取り出した。殺すつもりなどなかった。ただ、「止めたかっただけ」だという。

 しかし、結果は取り返しがつかなかった。

 しん作は倒れ、そのまま、背後にあった火鉢に頭をぶつけた。焦点の合わない視線。何かを言おうとして、言葉が追いつかない。

 ほとんど息のような声で

 「……落語が好きなだけじゃ……いけねえ……のか……」

 と言い残した。それが、古典亭しん作の最後の言葉だった。

 これは、悲しい事故だったのだ。