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〈書評〉 時の家 (鳥山まこと 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第10回

家族が暮らし、思い出を共有する場所

 父が脳梗塞で倒れ亡くなるまでの20年余り、また母も高齢になっていく中で、家の中もバリアフリー化され、家の中は子どもの頃に過ごした見た目とはだいぶ変わってしまった。

 しかし、今でも子どもの頃に過ごした家の内装は、大まかではあるが思い出せる。そして、昔の部屋を思い浮かべると、合皮のソファーに腰かけ、テレビのCS放送アメリカのプロレス団体WCWの中継で、相手選手に命乞い(相手が油断すると襲い掛かる定番の流れ)をするリック・フレアーの姿に「それは嘘や!!」と、テレビの中の相手選手に注意を促す父の姿や、ファミコンのパチンコゲーム『パチコン』にハマり、しばらくの間、毎晩何の演出もないただただ数字を三つ揃えるだけのパチンコゲームを、カイジが1玉4000円のパチンコ台『沼』に向かい合うような集中力で打ち続ける母の姿も浮かんでくる。

 両親ともに運転免許を持っていないので、持て余していた車庫には、母が漬けた梅酒の瓶が年々溜まっていき何十本も並んでいたが、ほとんどが阪神淡路大震災で飲むこともできず割れてしまった。シャッターを開けた空っぽの車庫で割れた瓶の掃除をする母の姿を覚えている。

 柱や扉の下の方に付いた傷を見ると、昔、家で飼っていた犬の『ナナ』や『チロ』が母の帰宅する気配を誰よりも早く感知し、廊下をディズニーよろしく足を空回りさせながら玄関へと飛び出していった姿や、剥げた土壁を見ると狂ったように土壁を齧っていたバチバチにキマッた目をしていたインコの『ピピ』を思い出す。

 家の中には、至るところに思い出が散りばめられている。

 残念ながら、私には家を買うような甲斐性はない。息子にも大人になるまで同じ空間で過ごさせてあげたい、私も自分の家族と同じ空間で思い出を共有したいと思っている。

 もちろん『同じ空間で思い出を共有』するだけなら長く住めばいいだけなので、買わなくたって今の借家でも構わない。しかし、今の借家は雨漏りに壁の中を駆けずり回るネズミに、玄関に置いた傘をパクっていく謎の住人に、数々のトラブルは枚挙にいとまがない。

 我が家の合言葉は「早く引っ越そう」だ。