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〈書評〉 時の家 (鳥山まこと 著)

「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第10回

これも小説の楽しさ

 小説の中で描かれる空き家の描写がとにかく細かい。正直、結構わからない。

 著者の鳥山まことさんは建築会社に勤務し、ご自身で設計し家を建て、その時の経験を元に書いたのが、この『時の家』だそうだ。やはり知識はもちろん、経験がないと、こんなに細かくは書けないだろう。

 私が落語家の小説を書いたら、きっと前座経験がある分、経験のない小説家が書くよりも仔細に表現できるに違いない。

 浅草演芸ホール近くのROXの地下のSEIYUに、タテ前座から『前座人数分のパンを買ってきてくれ』と、のせ代(食べ物を買うお金)を渡された場合、甘いパンとしょっぱいパンをどういうバランスで買えば、タテ前座の機嫌を損ねずに済むかというくだりで20ページは書けるだろう。

 余談だが、私がタテ前座の頃に後輩の小とり(前座名 あんぱん)に、『みんなにはパンとかおにぎりとか、俺にはスムージーだけ買ってきてくれ』と伝えたところ、彼はピンク色をしたラズベリーっぽいスムージーを買ってきた。私はもちろん『普通、スムージー言うたら緑やろ!』と、タテ前座の権力を振りかざして強めに突っ込んだ。

 小説の中の家を表現するわからない言葉を一つひとつ検索する。言葉や画像の情報を仕入れていくと、徐々に小説の中の空き家が映像として頭の中に浮かんでくる。何となくわからなくもないフレーズを調べるのは手間ではあるが、調べるとはっきりと頭の中に現れてくれる。これも小説を読む楽しさだ。

笑福亭茶光 X

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  • 書名 : 時の家
  • 著者 : 鳥山まこと
  • 出版社 : 講談社
  • 書店発売日 : 2025年10月
  • ISBN : 9784065412275
  • 判型・ページ数 : 四六判・144ページ
  • 定価 : 2,090円(本体1,900円+税10%)

(毎月1日頃、配信予定)

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