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第九話 「地獄のモーニングコール」

「令和らくご改造計画」

#5

 一歩、近づいてくる。

 「お礼の電話を、かけまくります」

 その時、彼と目が合ったが、目玉が真っ黒で、何を考えているのかわからない。

 「……な、なんだそれ」
 「この業界、お礼の電話の文化ありますよね?」

 恐る恐るうなずく。

 「それを使うんです。朝8時半に電話をかけます」
 「早くないか?」

 「早くなんか、ありません! 世間はもう働いています」
 「そうだけど……」

 「噺家だけですよ、8時半が早いだとか、10時を『早朝』だなんて言っているのは」
 「……早朝寄席のこと? あれは言葉のあやだから」

 彼は軽く手を振る。

 「まあ、それはどうでもいいんです」

 少し間を置いて、続ける。

 「で、我々の電話で起こしたとしても、二度寝しますよね?」
 「するかもね」

 「だから何度もかけます」
 「怒られるだろ」

 しかし、彼はきっぱりと言い切る。

 「お礼ですから。怒られません」
 「そういうものか……?」

 僕も思わず苦笑いをする。

 彼は、また静かに続けた。

 「しかも翌日も、翌々日もかける。お礼ですから、何度しても良いのです。そして、それを全前座でやるんです。そうやって噺家全員に、毎朝3回以上は電話がかかるようにシフトを組みます」
 「な、なんでそんなことするんだよ」

 一瞬も迷わず答える。

 「先輩方に働いてもらうためですよ!」

 そして、ふっと笑う。

 「前座による、お礼電話、地獄のモーニングコール作戦とでも言いましょうか」