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2025年8月の最前線 【前編】 (若手講釈師群像・一龍斎貞奈)
「講談最前線」 第5回
- 講談
貞奈が紡ぐ新しい講談の世界
これまで新作の話ばかりをしてきたが、古典でも力を発揮しており、「赤穂義士外伝」の『倉橋伝助(くらはしでんすけ)』を大切にし、その忠義たる世界を何とか自分のものにしたいと思い、繰り返し臨んでいく姿。
師匠の一龍斎貞心が得意にしている『朝顔日記』では、人物の心情描写といったものを体得し、一方で、一門が大切にしている『真柄のお秀』や『夫婦餅』といった話に、現代的な視線を取り入れようとする姿勢。
特に読み手として納得のいかない箇所を、何とか自分の読みとしてソフトランディングできるように読んでいく努力を惜しまなかったりと、古典と新作をバランス良く読んでいることがまた、貞奈の読みを深めていると言えよう。
個人的にもう一点注目しているのが、創作時に現代文明といったら大袈裟だろうか、AIを積極的に利用して、話を創っている点だ。もちろんAIに作らせて、それで終わりではなく、足りない箇所は実地取材を行ったり、再調査をして補足することも忘れないでいる。
『左甚五郎』に連続で挑んでいた際にも、『馬競べ』といった面白い話をこしらえてみせた。これは新しい時代の新しい講釈の作り方のあり方ともいえ、アナログでは調べることができなかった新たなエピソードであったり、題材に出会えることもある。
それだけに、貞奈がどうAIを使って、講談と向き合っていくかに大変な興味を覚える。

一龍斎貞奈の高座姿
最近になって、これまでの貞奈と言えば!ともいうべき、高座に上がった途端に両手を挙げて「ようこそ!」と言うのを、師匠の貞心に「やめなさい」と言われたそうだ。個人的にはあれこそが貞奈!という感があったが、8月には入門10周年の記念公演も終え、そろそろ一龍斎としての美学を保ちなさいということなのか。その真相はわからないが、高座が充実してきたからこその師匠からの忠告なのかも知れない。
そんな、常に現在進行形であり続ける、一龍斎貞奈の高座からは目が離せない。
(以上、敬称略)
(後編に続く)