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食べ物が詰まった、師匠桂三金の思い出と棺桶
シリーズ「思い出の味」 第11回
- 落語

今も思い出す、懐かしい料理の味と、かけがえのない時間の記憶
凄まじい食べる量と笑いの量
私の師匠、桂三金(かつらさんきん)のお葬式は大爆笑でした。
芸歴25年、48歳で人生の幕を閉じた師匠は、身長170センチ弱、体重120キロの大きな身体で、とにかく食べることが大好きでした。食べ物の好き嫌いはなく、『大好き』か『好き』のどちらかで、なんでもたくさん食べていました。
師匠はとにかく『食』に特化しており、また『食』と『芸』を結び付け、唯一無二の笑いを人々に届けておりました。その笑いを最後まで、お葬式でも遺憾なく発揮しておりました。
入門からお葬式までわずか2年の間でしたが、それは濃い『食』と『芸』の2年間でした。
師匠は身体の大きさ通り、食べる量も凄まじいものでした。
最初にその凄まじさを目の当たりにしたのは、入門志願をした日でした。勇気を振り絞って師匠に直接会いに行き、「弟子にしてください」と伝えました。
すると師匠は「そうか。よし、一度話をしよう。今から時間はあるか?」
すぐに断られる可能性もあった中、話をさせてもらえることに嬉しく思い「はい!」と返事をして師匠についていきました。そして気が付くと私はビフカツ屋さんに入っておりました。お昼時だったのでとりあえず腹ごしらえだと、一緒に私もビフカツの定食をいただきました。
私の定食は普通サイズだったと思います。師匠のビフカツは草鞋(わらじ)と見間違えるほどでした。
その後、喫茶店に行くことに。「やっとゆっくり話を聞いていただける」と心を躍らせながら入った喫茶店は、パン食べ放題のお店でした。師匠は私の“人となり”や“なぜ落語家になりたいか”など、色々な話を真剣に、パンを食べながら聞いてくれました。
師匠は、パンを合計8個も食べました。草鞋のようなビフカツの後、パンを8個。衝撃でした。あまりの衝撃から私は途中、師匠の目ではなくパンを見ながら話をしていたかもしれません。