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〈書評〉 雲助おぼえ帳 (五街道雲助 著・長井好弘 聞き手)
杉江松恋の「芸人本書く派列伝 オルタナティブ」 第4回
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人情噺の真髄
これら圓朝物が紹介されているのは、第四章「世話噺」である。世話噺とは雲助の造語だ。本来の人情噺とは「ひと月あるいは半月に渡って演じる続き物の噺」を指していたが、現代では泣かせ所のある噺という誤解が定着してしまっている。そこで泣かせとは関係のない連続物を、世話講釈に倣って世話噺と呼び表しているのである。
――ですから昔から「人情噺が出来なければ、一人前の真打ちではない」と言いますが、これはお客様を泣かせることが出来なければ云々ではなく、続き物を演じてひと月の間お客を呼ぶ力が無ければ真打ちではないという意味だったのです。
現在よりも寄席が身近で、語り物に大衆が親しんでいた昭和前期までの娯楽はそういうものであったと雲助は指摘している。テレビの連続ドラマに当たるものが人情噺だったのだ。そうした文化についての言及があるのが、本書の最も重要な点だと私は思う。
私事になるが、自著『日本の犯罪小説』(光文社)を著した際、現代の犯罪小説と近世文学や浄瑠璃とのつなぎめをどこかに入れたいと思いつつ、準備不足で果たせなかった。本書を読んで、そうか三遊亭圓朝がいたか、と再発見した次第である。
明治期の人々は、圓朝を聴いて人間を知り、この世の悪というものを実感していたのだ。そうだ、そうだった。人間国宝に教えられた。
(以上、敬称略)

- 書名 : 雲助おぼえ帳
- 副題 : 滑稽噺から芝居噺まで
- 厳選55席を語る
- 著者 : 五街道雲助・長井好弘(聞き手)
- 出版社 : 朝日新聞出版
- 書店発売日 : 2025/06
- ISBN : 9784022520647
- 判型・ページ数 : 四六判・400ページ
- 定価 : 2,750円(本体2,500円+税10%)

- 書名 : 雲助、悪名一代
- 副題 : 芸人流、成り下がりの粋
- 著者 : 五街道雲助
- 出版社 : 白夜書房
- 書店発売日 : 2013/09
- ISBN : 9784864940030
- 判型・ページ数 : 新書判・216ページ
- 定価 : ―
(毎月19日頃、掲載予定)