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『あんぱん』と『はだしのゲン』と『のど自慢』
東家一太郎の「浪曲案内 連続読み」 第4回
- 浪曲
浪曲師が『のど自慢』に挑む!?
ラジオやテレビの浪曲収録で、渋谷のNHKは慣れていますし、大学卒業後に3年ほどテレビ番組の制作会社でADをやっていましたので、NHKには出入りしていたのですが、ドラマのスタジオには今回初めて入りました。
広いスタジオをいくつも区切って、ドラマの場面場面のセットが作られています。ここで朝ドラや大河ドラマが撮影されています。思わずポーッとミーハーになる、テレビっ子、ドラマ好きとしては憧れの現場。
メインキャストの役者さんはもちろん、エキストラの皆さんのお芝居に対する姿勢からも学ばせていただきました。演出・撮影・音声・照明などのスタッフの皆さんのお仕事ぶり。大勢で協力して、段取りよく進行していくところは、浪曲とはまた違う世界で、根本は同じでしょうが、勉強になりました。
特に撮影、照明などの表に出ないスタッフの方が支えている社会なのかなと思いました。驚いたのはカット毎にカメラのアングルを変え、それに合わせて手際よく、配置を変えるところ。浪曲にも活かせそうな気がします。
私は着物と袴に着替え、今回は三味線弾き語り。帯をギターのストラップのように改良し、立って三味線を抱え、ドラマの中の『のど自慢』会場のマイクの前に立ちました。
『NHKのど自慢』は、現在も放送が続く長寿番組。1946年(昭和21年)1月19日に『のど自慢素人音楽会』という番組名で、NHKラジオにて第1回が放送されました。初の聴取者参加による娯楽番組です。
1月19日午後1時、内幸町にあったNHK放送会館の玄関に集まった参加希望者はなんと900人! そのうち、先着300人を午後6時までテストをして、すぐその夜の放送で合格者の声を電波に乗せました。
当時はまだカネを鳴らす方法ではなく、合格者には「合格」、不合格者には「結構です」と伝えたそうです。「結構です」と云われて、自分の歌が「結構良い」と褒められたと勘違いし、「放送は何時ですか?」と訊く人が現れ、まぎらわしいのでカネを打つようになったとか。
また、最初は合格者だけの放送でしたが、テストをしているうちに、歌っている本人は大まじめでも、とんでもない調子っぱずれや、思わず吹き出すような歌い方も出てくるので、テスト風景をそのまま放送してみたら面白いだろうということになった、と当時の番組を担当した丸山鐵雄さん著『ラジオの昭和』(幻戯書房)に書いてあります。
アメリカにも素人が公共の電波で歌うという番組はなかったそうで、まさに日本が生んだ新しい娯楽番組。一般大衆がラジオに参加できる!絶大な人気を誇ります。
当時のテスト風景の映像を見ましたが、民謡(八木節)のおじいさんや琵琶弾き語りのお嬢さん、三味線で小唄を唄うおじさんなど、歌謡曲以外もオーケーだったようで、きっと浪曲をうなる参加者も居たことでしょう。
最もよく歌われた曲が、
♪
赤いリンゴに くちびるよせて
だまってみている 青い空
並木路子の「リンゴの唄」。流行歌の多くは『のど自慢』でくりかえし歌われることによってヒットしました。