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〈書評〉 『講談・伝統の話芸』(有竹修二 著)
杉江松恋の「芸人本書く派列伝 クラシック」 第4回
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ヤマ場だけでは語れない、話芸の真髄
物堅い講談に時折入る官能描写の色気、殺しの場面の凄みなどと、市井の出来事を扱った、いわゆる世話物の話題を振ってから、講談の本筋である軍記物、修羅場を有竹は論ずる。
すべてに触れるわけにもいかないので、ぜひ本を見つけてご覧いただきたい。なるほど講談とは本来そういう芸能であったのか、と蒙を啓かれること間違いなしである。
「講談界にもの申す」という章では、昨今の(本が出た当時の)講談定席で長篇がかからないことについて書いている。
昔の定席は短くても一ヶ月興行だったから、長いものを順に読むことができたのだが、全部で五日間という短さでは「長い講談の中からいわゆるハイライト、ヤマ場を一席抜き読みすることになる。これでは、真の講談の味を、十分に表現することができない」と有竹は嘆き、大谷内越山の至芸を紹介する。
二代目山陽が講談界入りするきっかけを作った明治生まれの大物だ。講談の話はいつも起伏に富んでいるわけではなく、筋が平板な箇所もある。だれ場と言うが、これを嫌い、省略しておもしろいところへ飛ぶのを喰うと称し、講釈師仲間ではよくないこととされていたのだという。
越山はこのだれ場でも、お客を退屈させない名手だった。有竹はこう書く。
――それにしても、話術の芸は、話のヤマ場できかせるのではなく、平板な筋のところでも、静かに読むうち、次第にお客がそれに溶けこむような、たくまない技法があって欲しい。しかし、それは一朝にして取得できるものではない。こつこつと修業して、自ずと体得し得るものに違いない。不断の努力と、人間としての成熟をまって初めて身につくものだろう。
こうしたくだりにいちいち学ぶことがある。『講談・伝統の話芸』、どこかで復刊してくれないものか。岩波現代文庫あたりでどうだろうか。松林伯知あたりが、喜んで監修役を引き受けてくれそうな気がする。
(以上、敬称略)

- 書名 : 講談・伝統の話芸
- 著者 : 有竹修二
- 出版社 : 朝日新聞社
- 書店発売日 : 1973年
- ISBN : ―
- 判型・ページ数 : 菊判?・312ページ
- 定価 : ―
(毎月29日頃、掲載予定)
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