NEW

〈書評〉 『生殖記』(朝井リョウ 著)

笑福亭茶光の「“本”日は晴天なり ~めくるめく日々」 第3回

スカスカの言葉

 私も前座の頃は『前座らしく』に擬態し、漫才師の頃は『お笑い芸人らしく』に擬態していたのかもしれない。

 漫才師の頃、ときどき観に来てくれるお客さんがいた。理由はよくわからないが、その人はライブを観にくると、必ずコンビニのおにぎりを1つ私に手渡してくれた。その日もライブ会場に入る際、入り待ちをしてくれていたその人が、私にコンビニおにぎりを1つくれた。

 ネタが終わり、出演者全員が出るトークコーナー。MCが「嫌いなもの」というテーマで突然話を振ってきた。私は何も思いつかなかったが、その瞬間、脳裏をよぎったのが、さっき入り待ちでもらった『おにぎり』。

 咄嗟(とっさ)に「おにぎりですね」と、口走ってしまった。

 「おにぎり? あぁ、人の握ったやつな」

 MCの返答に対し、ここで頷いては面白くない。何か爪痕(つめあと)を残さなければ。「お前なんやねん!!」とMCが食いつき、盛り上がるような展開にしなければ……。

 「この世のおにぎり全てです」
 「え? おにぎり全部? コンビニのおにぎりも?」
 「……全部です」
 「へぇ……そうなんや。ほな、次のテーマは……」

 全く盛り上がらず滑りまくった。そらそうだ、私はおにぎりが好きなのだ。嫌いが嘘過ぎて、言葉に信念が乗っていない。言葉がスカスカなのだ。ウケるわけがない。