君は『浪曲天狗道場』を知っているか

「浪曲案内 連続読み」 第5回

君は『浪曲天狗道場』を知っているか

時代を熱狂させた、伝説のラジオ番組について語ります!(画:原えつお)

東家 一太郎

執筆者

東家 一太郎

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戦後、ラジオで人気を博した浪曲

 『NHKのど自慢』は、ラジオでスタート。戦後の荒廃した時代、国民に歌う機会を提供してマイクを開放、「放送の大衆化」を象徴する番組でした。当時は歌だけでなく、演芸を披露することもありました。ですので私が演じた「浪花節の男性」もいたわけです。

 それまでNHK独占だったラジオですが、1951年(昭和26年)にラジオの民間放送が開局します。そして1954年(昭和29年)頃に『のど自慢』人気にあやかって、「浪曲の素人のど自慢番組」が民放ラジオで誕生します!

 皆さま、『浪曲天狗道場』というラジオ番組をご存じでしょうか? 1954年から11年間続いたラジオ東京(今のTBSラジオ)の名物番組です。1978年(昭和53年)生まれの私は、もちろん知りませんでしたが、師匠に弟子入りした後、色々なお客様からよく話を伺いました。

 「うちの父が天狗道場に出たことがある」
 「毎週、ラジオで聴いていた」

 懐かしい思い出ばなしです。「天狗」というのは、いわゆる天狗連(てんぐれん)。本職ではなく、アマチュアで「浪曲を唸ってみたい」という人たちのこと。「俺はうまいんだ!」と鼻高々となるから「天狗」と云うそうです。

 戦後、浪曲がラジオで人気を博します。浪曲のさわり、ひとふしを真似して口ずさんでいるうちに、気持ち良くなった親父さん、銭湯の湯船で浪曲を唸ります。背景は、富士山と三保の松原。あのおなじみの壁の絵です。

 お風呂はちょうどいいエコーがかかりますね。カラオケのない時代です。「俺の節もまんざらじゃぁないな」と、声はいっそう張り上がる。「よぅし、いっちょ、のど自慢に出てみるか!」と、空前の浪曲素人のど自慢ブームが訪れます。

 そんな時代の浪曲・浪花節を愛してくださった沢山の方々、おそらく今は亡くなっている方が多いと思いますが、その人たちの浪曲への熱い想いをプロの浪曲師として大切に繋いでいきたい、相続したい――。

 レクイエムの想いを胸に秘め、少しでも演技で表現できればと、朝ドラの撮影に挑みました。のど自慢で浪曲を唸るというシーンに参加させていただけたことは、本当に幸せです。

 私が前座時代から師匠二代目東家浦太郎のそばに付き、ご縁をいただいてきた浪曲を心底愛する方々、古い浪曲の話を聞かせてくれる人たちも少なくなって来ました。浪曲が一番輝いていた時代のことを、私が語り継いでいかなければいけない順番になってしまいました。

 そして、これからも、浪曲はもっと輝ける、はず!